【Expanding story ~まるがめの市民活動~】即興劇を通じて感じる自分の心。プレイバックシアター劇団365
| まちのヒト・コト
マルタスでは、市民活動登録を行う皆さんに、活動に対する思いやこれからのことなどをインタビューしています。
皆さんが行う「市民活動」とは何なのか?活動に対する「思い」とは?
それぞれの活動のスタート、これまで、そしてこれからをお伺いしています。
ぜひ皆さんの活動や思い、踏み出した一歩をご覧ください。
今回は、「プレイバックシアター劇団365」代表の欠田さんと、加藤さんにお話しを聞きました。
プレイバックシアターとは、参加者が自分の体験した出来事を語り、その場で即興劇として演じる演劇です。台本のない即興劇とも呼ばれ、コミュニティの中で人と人のつながりを育むことを目的としています。
「プレイバックシアター劇団365」の皆さんは、子育て中のお母さんや地域の方に、即興劇を通して日々の悩みや思いを安心して語り合える場を提供したいと活動をされています。
即興劇と市民活動
マルタスで活動をすることになったきっかけを教えてください。
ー欠田さん
マルタスに登録する前から、即興劇をしていたのですが、それを人に見せる場所を探していました。マルタスはいいなと思っていたのですが、そのときに「市民団体ですか?」ということをスタッフの方に聞かれました。それによって部屋の料金も安く使用できることを聞き、正直そのときは、市民活動や市民団体の意味も全然わかっていなかったのですが、いろいろとお聞きして登録をしました。
それまでの活動内容と市民活動登録をされてからの活動内容は、何か変化はありましたか?
ー欠田さん
それまでは自分たちで場所を探して、企画もしていたのですが一馬力である意味孤独な作業でしたし、マルタスで市民活動登録はしましたが、私は勝手にこの名前がつくだけで、「市民団体」という書類上だけの話だと思っていました(笑)でも、それからはありがたいことにマルタスのスタッフが、企画も一緒に考えてくださるし、アイデアも一緒に出してくださるし、気付いたら二人三脚しているような感覚になっていて。すごく心強いと思いました。
お母さんや地域の方が安心して話せる場所を
活動の目的を教えてください。
ー欠田さん
「お母さんが日頃言えないような気持ちを安心して話をできる」そういう場所を作りたいというのが一番の大きな目的です。
私が、子どもが3歳ぐらいのときに運転しながら「あ、私ってママAだ」とふと思ったことがありました。それまでは個人としてアイデンティティが強くて、私はなんでもできるというような自我があったのですが、育児を3年もしていたら、「私ってただのママAだ。それ以上でもそれ以下でもない」と思ってびっくりしたことがあって。周りはすごく早く動いているのに、自分は止まっているような感覚になったことがあります。
お母さんたちが本当の気持ちを言える場所は意外とありません。
子育て広場に行って、 子どもをあやしながら「うちの子も食べなくて」「寝なくて大変」そんなことや旦那さんのグチぐらいまでは子どもがいても言うことができます。でもそれよりもっと深い話をしたい人もいると思います。例えば、「子どもを叩いてしまう」「本当はこう思っている」など、そういうことって、子どもの前では言いづらいことです。 それが例え0歳の子だったとしても聞いているし、お子さんがわかっていないとしてもやっぱり言いづらいと思います。
お母さんたちが自分のペースで、自分の気持ちが浮かんでくるのを感じて、それを話すということを一番大事にしたいと思っています。
ただ、24時間いつでも話を聞くということはできません。私たちは、マルタスで毎月第3水曜日「心が軽くなるワークショップ」という活動をしています。参加者の方にもやもやしたことやイライラしたこと、不安なことを話してもらい、それを私たちが劇にして再現するというイベントです。劇として見ることで、視点が変わり、少し気分がすっきりするのではないかなと思っています。
だから何かあっても「あのイベントでこの話をしよう」と思えたら、それまで例えば一ヶ月あったとしても耐えられたり、ネタを見つけたという風にポジティブに捉えられたりするかもしれないと思います。実際に話ができなくても、それまでの気持ちが違うのではないかと思いますし、自分にはこれを言う場所があると思う、そういう意味の安心感を持ってほしいと思います。
劇団を作りたいと思われた初めのきっかけを教えてください。
―欠田さん
お母さんたちが集まって意見を言える場を定期的に作っており、その中で、横浜にあるプレイバックシアター劇団「劇団プレイバッカーズ」さんに来てもらい、私たちが参加者として体感するというイベントを企画しました。そのときは、私は全く劇も興味がありませんでしたし、自分が劇をするという発想もゼロでしたが、イベントを通して横浜の劇団の方に「お母さんがお母さんのために、当事者が当事者のために、劇を使って話を聞いてあげるっていうのは、一番心に届くよ」と言われました。それを聞いて、私も「そういう力は確かにあるかもしれない」と思って。そこから、すごくビビりながらですけど(笑)経験ゼロの私が経験ゼロのお母さんたちを集めて、ピヨピヨとやり始めました。
プレイバックシアター劇団を呼んだことがひとつのきっかけとなっているのですね。
ー欠田さん
香川県でプレイバックシアターを体験するイベントがあり、それに参加して「すごい」と思ったことがありました。見終わった後、誰かの体験、その人の過去や瞬間、その場面を一緒に過ごしたような感覚になって、それまでは会話で共有していたことがプレイバックシアターでは全身をツールとして表現していてとてもいいなと思いました。見ることでその体験をした方と昔からの親友みたいな気分になったり、その方の心のどこかが触れるような、言葉では表現できない感覚になったり。私も初めて見たときは、何もわからないけど熱くなる感じがありました。
人に変化を与えることができるってすごいですね。
劇にもいろいろありますが、その中のプレイバックシアターの良さというのは、本当にあったその方のストーリーを演じるということだと思います。プレイバックシアターにはどんなにささいな何気ない瞬間のストーリーにも知恵が詰まっていて、学びがあり、すごく豊かです。
目の前でそのときに聞いた話を劇で再現するのですよね。感情の部分はどのように表現するのですか?
ー欠田さん
事前にお話は聞かずそのとき目の前で話を聞き、劇で表現します。私が初めて見たときはマジックかなと思いました。
ー加藤さん
なぜできるのだろうと思いましたね。打ち合わせもなく始まって、でも本当にその通りで心を打たれました。
ー欠田さん
ざっくりした流れとしては、何か話したい人に手を挙げてもらい、コンダクターが話を聞き、質問をします。「今思い出しているのは、いつのあなたですか?」「場所はどこにいます?」というような質問をいくつかして、「それでは見てみましょう」の言葉でアクターたちの演技が始まります。アクターも数名いるのですが、誰が何役をするかわからない状態で始まり、打ち合わせはなく阿吽の呼吸で、肌で感じながら演じていきます。
最初はうまくいかないこともありましたが、回数を重ねてなんとなくわかってきたことが多いですね。あと、スクールにも通いました。横浜にあるスクール・オブ・プレイバックシアター日本校にメンバーで通って、学んだことをしみこませていく感じですね。
演じる上で大事にしているポイントはありますか?
ー欠田さん
いろいろありますが、その人が語ってないことはしないということは意識しています。プレイバックシアターは、劇をするということよりもその人の心を預かって「それはこうだったのですね」と再現することが一番大事です。だから話は盛らないし、作らないということをすごく大事にしています。話した人からすると、少しでも違うと違和感があると思うので。とはいえ、なかなか難しいところもありますが・・・。
そういう意味で、2つ目に大事だなと思うのが、その人が語った中の「一番大事なことは何か」目をそらさず聞くことです。本当は、語った内容の全部ができたらいいのですが、その一番大事なことだけでもしっかりと受け取ることができたら、ほかの設定が少し違っていたとしても、話す方としてはあまり気にならない部分もあるのかなと思います。
もちろん、全部に細心の注意を払って演じますが、その方の一番大事な思いは汲み取りたいなといつも思っています。
イベントに参加された方からはどのような感想が聞かれますか?
ー欠田さん
毎月楽しみに来てくださる方がいますが、「ここに来たらすっきりする。デトックスの場所として使わせてもらっています」と最近も言ってくださって、このイベントがそういう場所になっているのは嬉しいです。
また、大学でプレイバックシアターをさせてもらう機会があったのですが、参加してくださった学生の方が「何て言っていいかわからないけど、『おおっ』という感じです」と感想を話してくださいました。ほかにも「私って心があったのだと思いました」「すごく震えています」などと声が上がってきて、「私も初めて見たときそんな風に感じたな」と思いました。
私たちは本当に演劇の「え」の字も、発声もやり方もわからないところから始めましたが、見た方たちがそういう気持ちになれるというのはすごく嬉しいことだと思います。
広がる活動と新たなチャレンジ
マルタスで活動される中で、新しい活動や広がりはありましたか?
ー欠田さん
市民活動を始めた当初は、参加対象を「お母さん」にしていましたが、私たちは夜に活動していて、対象であるお母さんたちが参加しにくいこともあり「どなたでも」に枠を広げました。 そうしたら、日頃知り合わないような年配の方や高松の方、大学生も参加してくださることもあって、普段私たちがプレイバックシアターをしたことがなかった方たちと交流が増えてきました。もともとプレイバックシアターはどんな場所でも使えるもので、学校などいろいろな場所で行われています。どなたでも参加できるようにしたことで、いろいろな人の話を聞くことができ、私たちの可能性が広がったような感じがします。
プレイバックシアター365の皆さんは、丸亀市の「ステップアップ補助事業」に申し込まれたそうですが、補助事業にチャレンジしようと思われたきっかけを教えてください。
ー欠田さん
ステップアップ補助事業については、まずそういった補助金があるという手紙が届いたと思います。先ほど、対象を「どなたでも」に広げたといいましたが、やっぱり私たちが目指すのは「お母さんが安心して話ができる」ということです。そこで、お母さんが一人で参加できる託児付きのイベントができたらいいなと思っていて、補助金があればそういったことも可能だと思いました。
ただ、私は書類関係がすごく苦手で・・・。説明を読んでも、そもそも私たちの団体が該当するのかもよくわからないし、書類も大変そうだと思ってお蔵入りしていました。でも、何かふとしたきっかけで、マルタスの担当の方に相談すると「いけると思いますよ、一緒にやりましょう!」と言っていただいて。すごくわかりやすく説明してくれて、書面も何回も添削してくれました。丸亀市の担当の方にも、いろいろ聞いてつないでくださって、手取り足取り対応していただき、利用できることになりました。
ステップアップ補助事業は、「新しいチャレンジ」というルールもありますが、それについてはどのようなことを考えていますか?
ー欠田さん
2月にステップアップ補助事業を使って行うイベントは、0歳から5歳の未就学児のお母さんたちを対象に、参加者が体験したこと(モヤモヤ・イライラ・嬉しいこと)を話していただき、皆で語り合いをします。夜ではなく午前中の開催、子どもたちを別の部屋で預かる託児付きとしました。ママが子ども離れて、自分の体験を話すことで客観視ができて、気付きが生まれたり心が軽くなったりする「語り直し」の手法を媒体としています。これは、プレイバックシアターのような劇ではなく、言葉でそのときの状況を再現するものです。
これまでのイベントは、いい意味で言うと幅は広がりましたが、本当に届けたいお母さんたちにリーチしているという感覚が薄く、葛藤がありました。プレイバックシアターはできていましたが、私たちが本当にしたいのは「お母さんが安心して本音を言える場所を作ること」です。それは、私たちが育児中のしんどいときに、そういう場所が欲しかったから。それを実現するために、託児付きというのは大きいと思います。
ー加藤さん
いつも来てほしいなと思っているお母さん方は、夜の参加が少し難しいこともあると思います。ただ、託児付きとなったら、足を運んでもらえるチャンスになると思っています。お母さんたちに届き、広がっていけばいいなと思います。
これからの活動
これからの目標を教えてください。
ー欠田さん
お母さんや丸亀市民の方たちみんなが「自分には自分の気持ちを話す場所がある」という感覚になったらいいなと思います。
毎日いろいろなことがあって、パンパンになるだけだと結構しんどいですよね。でも、そのモヤモヤやイライラなどを「ここで話そう」「聞いてもらおう」という場所があるだけで、日常生活が変わってくると思っています。そのために、私たちはそういう場所を作りたいし、そういう存在でありたいと思います。現在は年一回、自主公演をしていますが、そのためには年一回では足りないと思っています。もっとたくさんの方が、自分の個人的な気持ちをたくさん話せる機会を増やせたらいいなと思います。
また、お母さんたちは、家事や育児でバタバタして自分の気持ちに気付けないということもあると思います。たとえ一人でカフェに行ける機会があっても、自分の気持ちに気付くきっかけがなかったり、感じられなかったりする方も多いそうです。
だから、まずはプレイバックシアターを見てみてほしいと思います。ほかの人の心の景色を見ることで自分の心を感じるきっかけにもなりますし、次は自分が語ってみようというステップを踏み出す一歩にもなると思います。ですので、自分の気持ちがわからないという人にも来てもらえるイベントができたらと思います。
これから市民活動を始められる方に対して、一言メッセージをお願いします。
ー欠田さん
私は「市民活動」という名前には馴染みがありませんでした。
ですので、最初の一歩は市民活動だと思わなくても、まずはマルタスに行って、「私の夢に一緒に伴走してくれませんか」と相談してほしいと思います。市民活動や市民のためにという前に、まずは個人的に自分でどんなことがしたいのだろう?と考えてみること、また、活動をしていくことで、市民のためにもなることがと見えてくることもあると思います。
私たちでいうと、対象は「お母さん」しか見ていませんでしたが、それ以外にも広げることができました。活動するうちに、次のステップなども見えてくると思うので、最初は気軽に相談にいってみてほしいです。スタッフの方もすごくフレンドリーないい人たちですし、難しい書類も優しく教えてくださるので、安心して相談してみてほしいと思います。