レポート

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明るい広島の未来のため、続けていく。 特定非営利活動法人 石の里広島

丸亀市の沖合に浮かぶ島「広島」で、島を豊かで住みやすくするために活動されているのが「特定非営利活動法人 石の里広島」の皆さんです。
同法人は、閉校した学校を拠点に、デイサービス運営などの福祉活動やコミュニティバス、デマンドタクシーでの島内移動の支援事業、また、令和3年7月には、江戸時代に廻船問屋として栄えた尾上(おのえ)家の屋敷を宿泊や交流などの体験ができる施設「尾上邸」としてオープンし、管理・運営を行っています。
近年では、島に移住したいと考える方の相談窓口としても対応されるなど、丸亀市広島の発展のためにも尽力されています。
今回は、同法人の会長 平井明さんに、活動や今後についてお話をお聞きしました。



「必要な支援」を行う

「特定非営利活動法人 石の里広島」は、平成13年に発足し、約5年前に平井さんが会長を引き継がれました。同法人は、閉校した学校を拠点に、デイサービスセンターの運営などの福祉活動やコミュニティバス、デマンドタクシーでの島内移動の支援事業を中心に、手島自然教育センターの運営管理や広島、手島、小手島で「讃岐広島・小手島・手島活性化協議会」を発足し、古民家再生や環境保全などの活動を行っています。

―平井さん
現在、10 名のメンバーで活動をしています。島では高齢化が進み、だんだんと人が少なくなっています。これは、人がどこかに出て行って少なくなっているのではなく、人が亡くなり、人口が減少している状況です。このデイサービス事業は、市の指定管理として運営をしていますが、島で一人でも利用したいという人がいる限り、続けていきたいと思っています。
デマンドタクシー(※)での移動支援は、免許を返納した方などの交通弱者に、コミュニティバスが運行していない時間にも不便のないように島内での移動をしてほしいと、3年ほど前からスタートしました。土日や祝日、朝の早い時間や夜でも、予約をいただければ運行しています。利用する方は多くはないですが、このサービスがなかった頃は、「そもそも出かけるのを我慢しよう」などと考える方もいたので、これは必要な支援だと思います。
たとえ利用する人が少なくても、 NPOとしては、必要な人に必要なサービスを提供し、満足してもらいたいという考えで、活動を続けています。

(※)デマンドタクシー・・・予約制の乗り合いタクシーのこと。


海が目の前に広がる活動拠点


デイサービス利用者には笑顔が


活動を続ける

約5年前の世代交代をきっかけに会長職についた平井さん。今でこそ、「島のため」を思い活動を続けていますが、若い頃はそうではなかったと話します。

―平井さん
正直に言うと、自分自身が仕事をしているときは、そんなに島への関心はありませんでした。出身地で故郷ですが、親がいるというくらいで。当時、広島の主要産業である石材や漁業も少なくなり、衰退の一途をたどっていました。「まあ島はこんなもんだろう」と思っていましたが、外に出ていろいろと感じることがありましたし、だんだんと私も年を取って、「島はこのままでいいんやろうか?」と考えるようになりました。ですので、定年する5年前くらいからは、島に住み、丸亀市内の職場に通っていましたね。私の周りにも同じような考えの方が何人かいて、その人たちと、「島を何とかしていかなね」と話しながら、今までやってきた感じです。



新たな活動もスタート

平井さんは、今まで行ってきた活動を続ける一方で、新たな取組にもチャレンジしています。
その一つが、令和3年7月に宿泊や交流などの体験ができる施設としてオープンした「尾上邸」の管理・運営です。尾上家は、江戸時代に廻船問屋として栄え、この屋敷は約200年前の江戸時代末期に建てられました。石垣には、広島の名産である「青木石」が使用されるなどし、令和元年には、日本遺産の構成文化財にも認定されました。

―平井さん
私は、広島の近くにある「牛島」の丸尾五左衛門の子孫です。丸尾家も廻船問屋で、大きな商売をしていたようですが、一夜にして滅びたという伝説が残っていて、もう丸尾の屋敷はありません。せっかく尾上邸は残っているので、何とかこれからも残していきたいと考えていて、5 年くらい前から尾上さん側ともお話しをしていく中で、「島の活性化のために活用して欲しい」と、地元にいる私たちにまかせてもらえることとなりました。準備期間は、「お掃除ボランティア」などを募集して草刈りを手伝っていただいたり、丸亀市の企業と協力して片づけを行ったりと、たくさんの方に協力していただきました。
コロナ禍でのオープンとなりましたが、これまで約15組に利用していただきました。
尾上邸では、宿泊以外にも、漁師さんと魚をさばいて料理をしたり、おくどさんでお米を炊いたりと島に住んでいる人とさまざまな体験ができます。海外の方も好きだと思うので、コロナが落ち着いたらたくさんの方に来てほしいなと思います。
ただ、家自体は古い建物ですので、気を抜かず維持していきたいですね。また、体験も楽しいと思うのですが、島の方はみんな年を取ってきているので、いつまで続けられるか…という課題もあります。


尾上邸の石垣




島に住みたいと考える人たちのサポートを

平井さんは、島に住みたいと考える人や移住者の相談に乗るなど、対応を行っています。近年では、個人だけでなく、企業からも相談があるそうで、住む家の段取りや準備などを行い、移住者を迎えています。

―平井さん
補助金をとったりするのに NPOが関係することが多いので、島に住みたいというような相談にも、私たちが入ることが多いです。
ここ何年かで、若い移住者が島に入ってきてくれています。若い人が来てくれることは大歓迎ですが、島には仕事が少ないという課題もあります。広島の仕事は石材や漁業がメインですが、なかなかよそから来た人がいきなりできる仕事ではないと思います。
国の制度で「地域おこし協力隊」というものがあります。地域外の人材を取り入れ、地域協力活動を行ってもらい定住・定着を図るものですが、丸亀市はこの制度を利用していません。迎える方も安心な制度だと思いますので、利用しないのはもったいないと私は思いますね。
また、最近、広島にも光回線の整備も進み、ネット環境が良くなりました。実は、ある企業の社員が広島に住み、仕事をすることになっています。ネット環境さえあれば、今はできる仕事もありますよね。企業なら給料が出るので、生活の心配はいりません。だから、そういった企業の誘致なども行うことが、今後の島のやり方の一つなのかなとも思います。
あとは、移住してくれた方には、行事や集まりがあるときは、声をかけて一緒に楽しむようにしています。せっかく島に来てくれた人だから、島がいやにならないようにフォローしたいですね。



今後の活動を明るく

さまざまな活動を通して、「島のために」と尽力する平井さん。たくさんの課題と向き合いながら、今後の活動について話します。

―平井さん
現在、関係者は連合自治会が主体で、役員でまわしている状況です。ある程度若い人の考え方は必要だと思いますが、今の状況では引き継ぐのは難しいと思います。若い人に引き継いでもらえるのが一番いいですが、やっぱり生活のことを考えると…。収入の面でも厳しいですし、だからと言って、働きながらこの活動をするのは無理だと思います。実際、「石の里広島」も丸亀市の指定管理で動いているような状況ですし、経営自体なかなか厳しいです。NPOの活動の風向きが変わってきていることは感じますが、まだまだ難しいというのが本音です。
ここまで、とにかく「なんとかせんといかん」という気持ちだけできました。自分が頑張れるうちはしっかりと頑張って、次の方にきちんとまわせるように準備していきたいですね。



【編集部より】平井さんは、今回記載したお話以外にも、最近島に増えているイノシシに対応するため、わな猟免許を取得したり、観光事業のためカヤックのインストラクターをめざしたりと広島の未来のために精力的に動かれています。その思いは、きっと誰かに引き継がれ、明るい広島の未来へとつながっていくのではないでしょうか。

「尾上邸」の詳細はこちらをご覧ください。
まるがめせとうち島旅ノート「尾上邸」(新しいウインドウが開きます)

NPO法人石の里広島/讃岐広島・小手島・手島活性化協議会
さぬき広島・北前船の宿 尾上邸(新しいウインドウが開きます)