レポート

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子どもたちに、「未来を見ていいよ」と伝えたい。未来を見れるから、今を生きることができる。 特定非営利活動法人 未来ISSEY

丸亀市を拠点に活動されている「特定非営利活動法人 未来ISSEY」。2018年の設立から現在に至るまで、小児がんや心臓病などの慢性的な疾患によって長期入院・治療が必要となったお子様とそのご家族を支援する活動をされています。代表の吉田ゆかりさんは、ご自身の体験から、長期入院が必要となり孤立してしまった子どもたちの支援の必要性を強く感じ、NPO法人を設立されました。“子どもたちが、未来を見れるような支援をしたい”、その思いで活動される吉田ゆかりさんから、今までとこれからの想いを伺いました。

孤立した闘病生活

代表の吉田さんのお子様がある日突然、病気になってしまいました。長期的な治療が必要となり、2年半の闘病生活をされました。その間、友達との交流はもちろん、ご家族以外の人と対面で交流することができない状況となり、孤立してしまう経験をされたそうです。

―吉田さん
最初は香川県の病院に入院をしていたのですが、学校の先生や友達をはじめ、病院の外の人との接点がなくなってしまいました。元々通っていた学校の友達がお見舞いに来ることができる環境であれば良いのですが、私の子どもの病状的に、15歳以下の子どもが入れない小児病棟に入院したため、友達がお見舞いで病院に入れない状況でした。また、入院した病院には院内学級があったのですが、院内学級のある病院に入院すると、元々通っていた学校に籍がなくなってしまいます。そのため、転校と同じ扱いとなるので、先生はその子への支援が難しくなります。お手紙を書くなど、入院した子どもたちへの支援に積極的な先生ではない限り、友達との接点をつくることがより一層難しくなります。
そのような状況から、病気との闘いはもちろんですが、友達との交流が全くなくなってしまい、孤独との闘いが続く入院生活でした。

その後、岡山の病院に入院する機会があったのですが、そこでは慢性的な疾患による長期入院が必要になった子どもたちを支援する学生サポーターさんが在籍していました。学生サポーターの皆さんが定期的に病室に来て、一緒に遊んでくれました。学生サポーターさんの支えのおかげで家族全員が前向きになり、それまでは外との接点をつくることに前向きになれなかったのですが、積極的に外とのつながりを広げていこうと思うことができました。学生サポーターさんのおかげで前向きな気持ちになることができ、とても助けられたのが強く印象に残っています。



香川県で始めた、香川県初の取り組み「チーム・グッドブラザー」

吉田さんのお子様が病気になられた当時、長期入院の子どもたちとそのご家族を支援する制度が香川県内の病院にはありませんでした。当時の経験を活かし、自分の経験を生かして同じ悩みを抱えた方を支援できないか。そのような想いから、慢性的な疾患により長期入院・治療が必要になったお子様とそのご家族を支援する団体「特定非営利活動法人 未来ISSEY」(以下未来ISSEY)を2018年に設立されました。未来ISSEYでは、入院治療中・療養中のお子様ときょうだい児さんの心・遊び・学習・復学を支える活動「チーム・グッドブラザー」を設立当初から行われています。

ー吉田さん
「チーム・グッドブラザー」は、医療・福祉・教育を学んでいる学生、病弱児支援に関わりたいという県内の高校生・大学生・専門学校生・それを支えるスタッフ等で構成されています。お子様の体調のよい時に、定期的にボードゲームや学習支援等、交流の場を提供しています。当初、県内の様々な病院に声をかけたのですが、県内に同様の事例がなかったこともあり、なかなか理解されにくい状況でした。しかし、あるボランティアの集まりでこの話をしたところ、そのボランティアの方々のつながりのある病院の看護師長さんに繋いでいただきました。看護師長さんに企画をお伝えしたところ、この取り組みに賛同してくださり、企画書を院内の先生方に回していただきました。先生方の同意を得ていただき、この病院で「チーム・グッドブラザー」の活動を行うことができました。今は2つの大きな病院でこの活動をしていますが、この活動にご賛同いただけたおかげで支援の輪を広げることができ、とても嬉しく思います。

「チーム・グッドブラザー」のメンバーは主に、高校生と大学生が在籍しています。特に高校生の人数が多く、メンバー約130人中、約50人は高校生です。以前、ある高校の先生に未来ISSEYの活動紹介をさせていただいたのですが、取り組みに賛同してくださり、その高校の学生さんに向けてメンバー募集の案内をしてくださりました。そのおかげで、高校生メンバーが多く集まってくれています。また最近では、ボランティアへの意欲の高い高校生が、インターネットを使って自分から未来ISSEYを見つけてくる、ということもあります。
大学生は主に、医学部のサークルの子が集まってくれています。そのサークルが元々、障害のあるの子どもたちの支援をするボランティアのサークルだったのですが、私たちの活動に賛同してくださり、小児病棟の子どもたちへの支援もしてくれるようになりました。

最近の若い方々は、誰かを助けたい、支援したいという気持ちや、社会に対して何か貢献できないかという想いのある子が多いように思います。これはとても嬉しいことです。
設立から約2年半経ちますが、徐々に支援の輪が広がってきているように感じます。


2021年12月25日(土)に開催された、「レモネードスタンド※」という小児がん支援のためのチャリティーイベント。「チーム・グッドブラザー」のメンバーも参加されました、 ※小児がんと闘っていた、アメリカの女の子が始めたチャリティー活動。今では世界中に広まっている。


支援の一環で、絵本づくりもされています。


コロナ渦で活躍したコミュニケーションロボット

「チーム・グッドブラザー」の活動が軌道に乗り始めた中、新型コロナウイルス感染症の拡大により対面での支援ができない状況に迫られました。そのため、オンラインによる支援も始められ、中でも「OriHime(オリヒメ)」というコミュニケーションロボットを使った取り組みは、オンラインを通した支援の中で最も反応が良かったそうです。様々な制約によって行きたいところに行けない人がロボットを通してその場に行っているかのような体験をすることができます。

―吉田さん
ロボットにはマイクとカメラが内蔵され、顔や手を遠隔地から操作することができます。ですので、その場のやりとりに対してリアクションをしたり、自分が見たい景色を見たりすることができます。ZOOMのように、カメラ越しの風景を眺めたり、会話したりするだけのやりとりよりも、ロボットを導入することで、入院中の子どもたちはオンラインでのやり取りにより一層積極的になりました。以前、学校の卒業式にロボットを導入したのですが、その子は卒業証書の授与を疑似的に体験できたことに大変満足していました。また、卒業式に出席した子どもたちがロボットにとても興味津々で、子どもたちが自然とロボットに集まってくる、なんてこともありました(笑)。ロボットを介すことで、ユーザーがその場にいるかのような体験をもたらすことはもちろん、現場の方もロボットに近づきたくなるので、コミュニケーションが積極的になり、楽しくオンラインに参加することができるようです。

また、私たちは小児慢性疾患の子どもたちの支援を目的としておりましたが、ロボットを通して、引きこもりの子どもたちへの支援もできるのではないかと思いました。このロボットを通して、外との接点をつくりにくかった子どもたちが、少しでも外に目を向けてもらえるきっかけになるのではないかと思います。

ロボットを学校に導入することで、慢性的な疾患を抱えている子どもたちをはじめ、様々な事情で外に出ることができなくなった子どもたちへの支援が広がるのではないかと思い、いくつかの学校に話を持ち掛けたことがあります。しかし、GIGAスクール構想が掲げるICTの導入で、オンライン授業の導入が進むだろうという考えがあるため、ロボットを導入することの必要性をあまり感じられていないのが現状です。ただ、一度試しに使っていただいた学校はロボットに好意的で、貸したらなかなか戻ってこないくらいの反響をいただけます(笑)。ロボットを使っていただくことで初めてその良さを感じてもらえるので、まずは体験会のような場を提供したり、実際に使っていただいている皆様のロボット導入の背景や実績・事例等をご紹介しながら、ロボットの良さを発信しています。そして現在は、香川県オリジナルコミュニケーションロボットとして「つながロボット」を制作中です。


コミュニケーションロボット「OriHime(オリヒメ)」


「チーム・グッドブラザー」が、コミュニケーションロボットを使って色々な場所を案内しています。


最大の目的は、“人と人をつなげること、未来の可能性をつくること”

―吉田さん
私たちは、ロボットを導入することが目的ではなく、人と人をつなぐことが最大の目的です。とても嬉しかったのは、ロボットの体験を通して、ロボットの開発者になるという夢をもった子もいれば、ボランティアやNPOに興味をもってくれた子もいました。ロボットは、人と人をつなげることだけでなく、将来の夢や目標をみつけるきっかけになる、そんな可能性を実感しました。ロボットを通して、多くの人に、可能性を広げるきっかけをつくりたいと思いました。

もうひとつの入口としての「MARUっとプレゼン」

今年7月から始まった、中・高校生向けプレゼンテーションワークショップ「MARUっとプレゼン」。小児慢性疾患の子どもたちへ直接的な支援とはまた違う、新たな事業をスタートさせたのは、未来ISSEYの活動を知ってもらうための間口を広げるという意味があったのだそうです。プレゼンテーションのセミナーも開催されている吉田さんは、若者のプレゼンテーション能力の向上に役立ちたいと考えこのセミナーを開催されました。

―吉田さん
今までは、小児慢性疾患のこどもたちを救うことを最大の目的として、その子どもたちへの直接的な支援に注力していました。しかし、その子たちを支援するのは私たちではなく、比較的歳の近い高校生や大学生です。支援をしてくれる高校生や大学生が増えないことには、目的としている課題の解決にはつながりません。支援してくれる高校生や大学生との出会いをつくることに力を入れていこうと思いながらも、「チーム・グッドブラザー」という活動単体だけでは、支援者が限られてしまうというハードルを感じました。長期的な疾患で悩んでいる子どもたちの支援自体、知っている方が限られてしまうので、広がりをつくることが難しいのです。

そこで、別な取り組みを通して様々な方と接点をつくる活動をはじめようと思いました。「チーム・グッドブラザー」以外の未来ISSEYの活動に参加していただき、その中で未来ISSEYの様々な取り組みを知ってもらうことで、支援者が広がるのではないかと思いました。私のスキルで今の子どもたちに支援できることを考えたときに、元々得意としていたプレゼンテーションの講習を子どもたちに生かすことができないかと思い立ち、「MARUっとプレゼン」という活動を始めました。

この活動では、“子どもたちに、何かでき“た”という達成感を感じてほしいと思っています。達成感を実感することで、色々な事に対して興味を持ち、挑戦する意欲が生まれると思います。プレゼンテーションが上手になることももちろんですが、“何かできた”という達成感を体感してもらえるような活動ができればと思っています。そして、未来ISSEYの取り組みに興味を持ってもらえた時に、「チーム・グッドブラザー」の取り組みに対しても“自分ならできるのでは?“と思ってもらえるのではないかと思いました。

色々と手を広げすぎてはいけないとも思いますが、様々な接点をつくることが支援の輪を広げる上で大切な活動だと感じました。始めたばかりの取り組みで試行錯誤している段階ではありますが、今後も様々な取り組みを通して、様々な方との接点をつくりたいと思っています。


MARUTASUで開催された「MARUっとプレゼン」

将来の目標は、活動の場を持つこと

ご自身の子どもさんの支援から始まり、「チーム・グッドブラザー」、コミュニケーションロボット、「MARUっとプレゼン」など、様々な活動を広げてこられた吉田さん。最後に、将来の目標を教えていただきました。

―吉田さん
夢物語ですが、将来は未来ISSEYの活動の場所を持ちたいです。学生さんが集まったり、病気から復帰したときに、闘病中に出会った子どもたちが再会できたり、復帰後の社会参加の支援ができたり、ボランティアをしてくれる方を育てることができる。そんな場所をつくりたいです。例えば、今問題になっているのは高校生の就職支援です。闘病生活から復帰した後に、社会に出て仕事をすることができないと思い込んでしまったり、就職先が少なかったりと、仕事を見つけることが難しいという課題があります。ですので、就職に直結するような支援も必要だと思っております。

必要としている方をいつでも支えられるような、お互いに支援しあえる場をつくることが、今後の大きな理想です。子どもたちは、未来があると信じているからこそ、今を頑張れます。私たちは、子どもたちに“未来を見ていいよ”と伝えること、未来を見せることが大切だと思います。未来ISSEYの『ISSEY』は『一世』と書き、“一つの世界”という意味が込められています。あなたも、この世界の一員ですよ、あなたを見ていますよ、という思いを発信しつづけていきたいです。



【編集部より】「大人が、子どもたちに未来を見せることが大切だと思います」。吉田さんの強い思いは、たくさんの子どもたちへの希望の懸け橋なのではないかと思います。


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