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地域の未来をつくる~北欧インテリアから考える島の未来と地域活性~ 2021.10.1(金)

マルタスで開催されている「FRITZ HANSEN Café」の一環として、10月1日(金)、「地域の未来をつくる~北欧インテリアから考える島の未来と地域活性~」と題したトークショーが開催されました。
「瀬戸内国際芸術祭2019」の期間中、本島にオープンした無料休憩所「フリッツ・ハンセン庵」。本島の笠島まちなみ保存地区内にある築100年の古民家を、北欧のインテリアブランド「フリッツ・ハンセン」の家具で蘇らせた企画が大きな反響を呼び、瀬戸内国際芸術祭の期間と相まってたくさんの人を楽しませました。
同企画の仕掛け人である、丸亀市のインテリアショップ「CONNECT」のオーナー髙木智仁さんと「フリッツ・ハンセン日本支社」の鈴木利昌さんによる今回のトークショー。インテリアが持つ力を最大限に利用したフリッツ・ハンセン庵の裏話や、2人が感じる地域の可能性など、さまざまなお話をしていただきました。

インテリアを知る

まずは自己紹介からお願いします。

―髙木さん
丸亀市の綾歌町、山の方で15年くらいインテリアショップをしています。会社のミッションと運営テーマは、「シンプルで心地よい暮らしを提案する」。インテリアを主軸にし、北欧家具をメインで取り扱っています。インテリアは身近なものですが、北欧インテリアだとわかりづらいことや、身近でなくなることもあるので、最近はとにかく情報発信をメインに行っています。また、“シンプルで心地いい暮らしを提案する”というテーマのもと、インテリアの販売だけでなく、地域や暮らしに関わること全般をジャンルレスでやっていこうということで、現在、体制を整えています。

―鈴木さん
フリッツ・ハンセン日本支社で、全国の小売店さんや家具屋さんの営業として、全国の方と接しています。その中のお客さんの一人としてCONNECTさんとお付き合いさせていただいています。「フリッツ・ハンセン」は、150年ほど前にデンマークで創業した家具ブランドです。本日、皆さんに座ってもらっている“アリンコチェア”やデンマークのみならず、家具のデザイン史に刻まれているような名作と呼ばれている、“エッグチェア”などを製造し続けている会社です。



本島とフリッツ・ハンセン庵


丸亀に浮かぶ島、本島で古民家を改修し、家具を展示して休憩所にする「フリッツ・ハンセン庵」の企画は、どういった経緯で取り組まれようと考えられたのでしょうか。

―髙木さん
私は、2017年から本島に入り活動をしていました。島で活動をスタートしたとき、「本島スタンド」というカフェをオープンし、今も営業しています。日々、インテリアを扱っていく中で、インテリアが地域にとってプラスになる動きができると思っていました。そのチャンスを狙い、瀬戸芸のタイミングで、フリッツ・ハンセンと一緒に何かできたらいいなと思い、話を持ちかけました。鈴木さんに、「ちょっと話があるんですけど、時間ありますか?」と、A4サイズ3枚ぐらいの資料を持って相談しました(笑)インテリアが地域の社会課題にも貢献できるのではないかと感じたことを、フリッツ・ハンセンにぶつけてみたという感じですね。

―鈴木さん
ブランドとして活動すると、今までは有名な建築家が建てた建物でイベントをするなどがメインとなっていました。ですので、最初はできるかな?というのが正直ありましたね。私の勉強不足ですが、「本島ってどこ?」からのスタートで。とはいえ、瀬戸内がアートで盛り上がっているのは知っていましたし、私自身、プライベートで遊びに来たりもしていたので、個人的にはそういった環境で出来ることはおもしろいなと思いました。しかし、ブランドとしてやるにはハードルは高いだろうなというのはありましたね。

企画書の段階でここまでイメージできていましたか?


―髙木さん
僕の頭の中には、「こういうことになるだろう」と確信的に信じていました。インテリアが空間を変えるということは、日々の仕事で体験していたので。フリッツ・ハンセンとフルスペックで、残すとこなくしっかりとやりきりたいなというのがあったので、「どうする?鈴木さん」と話しましました。

―鈴木さん
だいぶドキドキしましたね(笑)


© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi


なぜ島に興味を持たれたのでしょうか?

―髙木さん
本島に入るきっかけはいろいろ重なりました。「シンプルで心地いい暮らしを提案する」というテーマのもと、まずは、綾歌でお店の周りにある空き家をリノベーションするプロジェクトをスタートさせました。それと同時に、デンマークの大学の建築学科の学生を受け入れるというプロジェクトを立ち上げて。ここは話せば長くなりますが…学生たちから「丸亀の島で活動したい」というリクエストがあったり、自分自身もプライベートで子ども連れて本島に遊びに行ったりしている中、「どうやって地域を盛り上げていくか」ということを考えていました。丸亀市って意外と縦に長いんです。CONNECTがある場所は山側、その反対側は島。島側がしっかり盛り上がってくれれば、海と山がつながり、縦にラインができる。すると、人がどんどん流れていくのではと思いました。あとは、僕は山育ちなので単純に海へのあこがれもありましたね。毎回思うのが、この距離で島にいけるというのはすごいなということ。丸亀市の山側からでも、30分行けば瀬戸内の海が広がっていて。本島に行きだしてから、「そんな漁師さんいたの?」とか、その漁師さんがすごい魚や貝をとっていたりだとかして、日々発見がありますね。単純におもしろいと思います。



北欧インテリアの力で蘇った日本家屋”フリッツ・ハンセン庵”


フリッツ・ハンセン庵について教えてください。

―髙木さん
本島の笠島地区というまちなみ保存に認定されているエリアで、築100年ぐらい経過した建物を利用しました。まちなみ保存に認定されているエリアなので、屋根は認定段階で改修がされていましたが、それでも初めて行ったときはすごかったです(笑)畳がはがされており、部屋は物置程度でしか使われていなかったので、埃まみれで。鈴木さんを連れっていいのか?という状態でしたが、連れて行かないと始まらないので、現状を見てもらいました。

―鈴木さん
最初このプロジェクトを持ちかけていただいたときに、本当にできるかなというのがあったんですが、現地を見て、正直に言うとすごい有様だったので、さらに本当に大丈夫かなと思いましたね(笑)「こういう改修になる」ということを聞いても、僕にはまだ描けていなかったので、「その最小限の改修で大丈夫ですか?」という感じでしたね。


© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi


改修は大変でしたか?

―髙木さん
実はそれがそうでもないんですよ。床は、畳をはいだ後の地板に断熱材を入れながら、フローリングを引き直しました。壁も結構傷んでいたので、職人さんにしっくいを丁寧に塗り直してもらいました。外観は状態が良かったのでそのままですし、障子も張り替えていますが、一部は建具をそのまま使っていますよ。もちろんクリーニングなどはしていますが、比較的改修はローコストにとどめて、あとは、フリッツ・ハンセンの家具が入れば劇的に変わるなというのが私の中にありましたから。また、あえて手を入れず、そのままに近い状態の部屋も残しました。そこだけ天井が吹き抜けていたというのもあったので、梁の感じなどしっかり見てもらいたいなと考えたときに、あえて留めて残しましょうと、わびている部屋を作りました。​


© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi


実際にフリッツ・ハンセンの家具を展示してみていかがでしたか?

―鈴木さん
最初は不安ではあったものの、フリッツ・ハンセンの家具の可能性みたいものは私も信じていました。フリッツ・ハンセン庵をコーディネートさせていただく中でも、「日本家屋だから」といって、あえて和によりすぎないような形でのコーディネートを心掛けました。もともとフリッツ・ハンセンの家具は、重心が低めのものが多かったり、無駄な装飾が基本的になかったり、機能美というところで日本家屋に合いやすいというのがあるんです。そんな中でも、あえて和に寄せた、例えば木のイメージをふんだんに使った家具を持っていくなどのアプローチでなく、我々の世界観というものを表現しながらうまくミックスしていけるようにしましたね。実は、今回のコーディネートは、本国の北欧デンマークのものが手掛けたのではなく、あえて日本支社のスタッフでレイアウトしました。というのも、デンマーク人から見る日本家屋だと和を意識しすぎてしまい、違和感がでちゃうのかなと。今回はそうならないように、日本のスタッフが手掛けました。



今までも古民家にフリッツ・ハンセンの家具を展示するというような取組もあったのでしょうか?

―鈴木さん
もちろん日本家屋にフリッツ・ハンセンの家具を入れるということはいろいろなところでしていただきましたが、古民家を我々の力で再生するというのは初めての試みでした。全国見ていると、それぞれの町にそれぞれのいいところがあるのに、都会を意識しすぎているなと感じます。フリッツ・ハンセン庵は、我々のブランドと本島の良さを最大限に表現できたと思います。

―髙木さん
フリッツ・ハンセン庵が終わってから、さまざまなところから「あれはどういう仕組みですか」と聞かれましたね。本当に稀なことだったと思います。

インテリアの持つ本当の価値

フリッツ・ハンセン庵は、有名雑誌にも特集される取組となりましたが、どういったところが注目を集めたポイントなのでしょうか。

―鈴木さん
フリッツ・ハンセン日本支社として、イベントをすると都市部での開催がほとんどですが、各ブランドがそのような形でやるので、イベント自体が注目されることはあまりなかったです。フリッツ・ハンセン庵は、本島で、さらに地域の関わりを作りながら古民家を再生するという取組がたくさんの皆さんに興味持っていただいたのだと思います。

―髙木さん
空き家になってしまうところって理由がありますよね。仕事や産業がないなど、複合的な理由があって、使われなくなってしまいます。インテリアは、そこに滞在する理由を作ってくれると思います。椅子が一脚あれば、「ここに座ってみよう」、「ここでコーヒーを飲んでみよう」、「しゃべってみよう」と思える。椅子についての話ができたりもします。インテリアがあれば、いろいろなことができるのに、座るという機能だけとか、値段、一時的な見た目だけとかだけでとらえられすぎていると思います。インテリアの本質的な価値に気づいてもらえたらすごく嬉しいし、それは地域にとっても可能性がある話だと思っています。それを「フリッツ・ハンセン庵」で表現できました。



フリッツ・ハンセンのクラフトマンシップについて教えてください。

―鈴木さん
フリッツ・ハンセンの商品は、工業製品として作られているものが多いですが、工業製品といえども、クラフトマンシップが満載です。“アリンコチェア”も工場で製造されてはいますが、さまざまなところで人間の手がないと作れないようになっています。また、“エッグチェア”はクラフトマンシップの代表作みたいなもの。職人の技術力なくしてはこの椅子は誕生しません。クラフトマンシップは日本語にしたら「職人技」というところ。日本の家屋もそういった技術で作られていると思うので、そこが共通するところだと思います。

―髙木さん
北欧ブランドは素材に対してとても厳しいです。世界でも一番というくらいの素材を集めています。そして、古民家は古くはなっていますが、とてもいい素材を使っています。柱など、100年経っても持つということは、当時としてはいい素材を選び、手を掛けながら、建物になるように作り込んでいたんです。フリッツ・ハンセン庵は、それを手直ししただけ。フリッツ・ハンセンのきちんと素材を選んでいることと古民家は合うよね、と実証できたと思います。クラフトマンシップということが共通しているのかなと考えています。



フリッツ・ハンセン日本支社として、地域で行う取組がほかにあれば教えてください。

―鈴木さん
フリッツ・ハンセン庵は今までやったイベントでも一番反響のあったイベントだと思います。家具業界だけでなく、さまざまな業界の方から「あのイベントすごかったですね」というようなお声掛けをいただきました。ですので、ほかでも「フリッツ・ハンセン庵のようなイベントをぜひやりたい」という声をいただきました。ただ、その後、新型コロナウイルス感染症が拡がってしまい、そのイベントは残念ながら実現には至っていません。

―髙木さん
フリッツ・ハンセン庵は、瀬戸内国際芸術祭2019の期間に合わせて開期を設定していましたが、CONNECT側にも「そのあとも続けてほしい、まだ見たい」という声をたくさんいただいたので、年末まで期間を延長しました。関西方面から来られる方は多かったですね。でも、さすがに東京とかからは遠くて行けないという声も上がっていて…この取組を全国の人にもできるだけ知ってもらい、本当のインテリアの価値やインテリアの力を使い、全国の空き家が活用されていけばいいと思っていたので、2020年2月に、「出張本島」という感じで、フリッツ・ハンセンのショールームに「フリッツ・ハンセン庵」を持って行きました。そのときもたくさんの人に来ていただきました。

―鈴木さん
古民家ではなかったので、「フリッツ・ハンセン庵」と言っていいのかはわかりませんでしたが、再現するべく手を尽くしました。

―髙木さん
本島を少しでも感じていただけたらと思い、本島スタンドのメンバーと一緒に、本島の食材なども持って行きました。表参道に本島の干しだこを吊るしましたよ。それには、来た方もびっくりしていましたね(笑)

地域の価値に気づく

島での取組を通して感じた魅力などはありますか?

―鈴木さん
それぞれの地域には、それぞれの素晴らしいものがたくさんあり、土地によって全然違うキャラクターを持っています。フリッツ・ハンセン庵をきっかけに、インテリアの力を使い、そういうものを広めていく手助けみたいなことができたらいいなと思いました。皆さん、すごくいいところに住んでいるんですよ、と伝えたいです。

―髙木さん
見慣れた場所になってしまいますよね。自分たちにとって、日常になってしまっていることが結構あると思います。「あの空き家はずっと空き家」と見えている場所も、「ちょっと見方を変えてみませんか?」と言いたいです。表面的な汚れや傷み、ごみが散らかっているなどは片づければいい、少し手直しすればいい。そして素敵な家具を置くだけで空間が一変します。マルタスも普段のレイアウトから、今は、「FRITZ HANSEN Cafe」として、フリッツ・ハンセンの家具や照明を吊るすだけで、イメージが変わったと思います。日常なんとなく見慣れた景色や何気ない空間も、家具や照明を少し変えてあげるだけで、ものすごく変わるんですよね。



地域とインテリアの可能性

最後に一言ずつお願いします。

―鈴木さん
それぞれの地域には本当にそれぞれいいものがあります。私は、フリッツ・ハンセン庵で、本島の素晴らしさも体感させていただくことができました。皆さん、本当にいい町にお住まいだと思います。これが皆さんにとっては、当たりまえだと思いますが、それは当たりまえじゃないですということを伝えたいです。

―髙木さん
ちょっとしたことで変えられると思うんですよ。使われていない空間に、お気に入りの椅子を一脚持っていくだけでも、僕はリノベーションだと思っていて。「使い方を変える、考え方を変える」ということが本当の意味ではリノベーションだと思います。空間を整えただけでは、価値が生まれにくい。でも、インテリアがあれば、それを一気に、気軽に変えることができると思っています。家具は、空間の使い方を指し示してくれるツール。家具だったらどこでも持っていけますよね。照明でも椅子でも、スツール一個でもいい。インテリアと一緒に楽しんでみることを日本全国でできれば、空き家なんてなくなるんじゃないかなと思います。そこが地域の無料休憩所や子どもの遊び場でもいいと思います。内と外をつなげながら、まずは半分遊びでもいいと思うので、そういうところからスタートしていき、いろいろな本質的な価値に触れてもらえれば豊かな暮らしになるのではないかなと。それが心地いい暮らしに繋がるのではないかなと思います。​



【編集部より】フリッツ・ハンセン庵やインテリアが見出す地域の価値など、とても奥深い話を伺うことができました。今回のトークショーの様子は、CONNECTさんのYouTubeにアップされています。こちらのレポートに記載しきれていない、フリッツ・ハンセン庵の裏話や家具の置き方などのお話しも…。ご興味のある方は、ぜひそちらもご覧ください。

【CONNECT公式HP】https://www.connect-d.com/
【CONNECT公式YouTube】https://www.youtube.com/user/connect7702
【フリッツ・ハンセン庵】https://www.fritzhansen.com/ja/Inspiration/Stories/Collaborations/Fritz-Hansen-AN