レポート

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まちのパン屋さんから「ふくし」について考えてみよう

5月29日(月)、「福祉works MANMARE」によるトークイベント「まちのパン屋さん×ふくし」が開催されました。

同団体は、福祉現場で働く人たちの交流機会を通じて、相互のコミュニケーションを図り、エネルギーを蓄える場とすること、また、福祉に関心を持つ人を増やし、地域全体がお互いに助けられるようになってほしいとの思いで活動をスタートされました。

初めての活動となる今回は、丸亀市郡家町にある「パン屋ゆうぱん」の店主 平尾祐さんを招き、同団体の丸畑さんとのトークセッションを開催しました。「パン屋さん」と「ふくし」がどうつながっていくのか、平尾さんにパン屋さんの仕事について伺いながら考えていきました。



―丸畑さん
福祉works MANMAREと申します。丸亀市市民活動登録をして、少しずつ取組をスタートさせ、今回のトークセッションが初めての活動です。

私自身は、福祉関係の仕事を長年続けています。福祉というのは、施設でのサービスの提供、訪問介護などいろいろな形がありますが、もっと幅広く「ふくし」というものを広げていきたい、知ってもらいたいという思いを持っていました。それは、福祉施設などで仕事をするということだけでなく、「ふくし」の気持ちや心を持った人たちがもっともっとこの地域に増えること、また、一人でも多くの方に関心を持っていただき、この地域の人たちがしあわせになればという思いからです。
今回は、「パン屋さんとふくし」ということで、郡家町にある「パン屋 ゆうぱん」の平尾さんにお越しいただきました。今日は親しみを込めて、「ゆうさん」と呼ばせていただきたいと思いますが、実は私とゆうさんが特別親しいというわけではありません。私は、ゆうぱんさんのサンドイッチがすごく好きで、ときどき買いに行くのですが、店内に入ると、ガラス越しにゆうさんがパンを作っているのが見えて、いつもこちらの様子をなんとなく伺ってくれている感じがして、一度話してみたいと思っていました。そこで勇気を出して、今回の企画について声を掛けさせてもらいました。
今日は、パン屋さんの仕事の内容やこだわりなど、ゆうさんにいろいろ伺ってみたいと思います。まずは、1日の仕事の内容やスケジュールを教えてください。

―平尾さん
パン屋さんによって違うと思いますが、僕の場合は朝2時頃から作っています。ゆうぱんのオープンが午前7時なので、その時間にはその朝に焼いた食パンを切れる状態で出したいと準備しています。朝2時から食パンの作業をスタートして、食パンを発酵させる時間にほかのパンの作業などを行い、オープンまでずっと動いています。その後も、お昼まではずっとパンを焼き続け、店の状況を見ながら、売れたパンを追加します。お昼頃、パンが焼き終わったら休憩をして、次の日の生地の仕込みを行います。

―丸畑さん
朝2時から!早いですね。お休みはありますか?

―平尾さん
週2日お休みです。連休をいただいて、1日は丸々休めますが、もう一日は次の日パンの仕込みを7~8時間くらいしています。

―丸畑さん
仕込みについて教えてください。

―平尾さん
食パンでいうと、粉や材料を計量し、ミキサーで練ったものを1次発酵といってしばらく寝かしておきます。それを分割し、生地のハリがとれたら成形します。その後、型に詰め、2次発酵を1時間弱行い、焼きに入ります。窯に入れて40分くらいでできあがりです。



―丸畑さん
仕込みで難しいことはありますか?

―平尾さん
季節によって温度や湿度が違うので、生地の水分量の調整や生地を扱うときに粉を手に振るのですがその量を調整すること、また、生地の温度がかわるので、発酵の時間を変えるなど、状態を見ながらするのが難しいですね。

―丸畑さん
生地の状態はどのように見ているのですか?

―平尾さん
これは感覚や慣れみたいなところがあるので、言い表しにくいですね。いろいろ試してみて改良を加えてはいるのですが、そのときどきで違うのでなんとも言いにくいです。できあがりはいつも同じものにしたいので、状態をみて工程を変えて対応しています。

―丸畑さん
毎日工程が変わるのですね!仕事をする中で大切にしていることやこだわりはありますか?

―平尾さん
自分がおいしいと思うものを出したいと思っています。ですので、食べたときの素直な「おいしい」という気持ち、食べる側の気持ちを忘れないようにしようと思っています。ただ、人それぞれ好みがあり、全員がおいしいと思うものは作れないので、せめて自分がおいしいと思ったものをだして、それに共感してもらえたらいいなと思っています。
あとは、ケーキのようにイベントのときに食べるものではなくて、毎日食べるなかで「ちょっとした幸せ」みたいなものを感じてもらえたら嬉しいです。だからこそ高い値段にはしたくなくて、子どもでも一人で気軽に来られるような買いやすい値段で、飽きのこない、でも期待より少しおいしいというパンを目指しています。



―丸畑さん
パン屋さんを目指す方がいたらどうアドバイスされますか?

―平尾さん
一人でできることって、すごく少ないです。僕も始めたばかりの頃は、たくさんのことを考え、頑張りすぎて無理して休んだ時期もありました。無理の来ない工程を考えて、長く続けられるようにしていくことがいいのかなと思います。

―丸畑さん
ほかのパン屋さんってどう見えていますか?

―平尾さん
それぞれ作っているものが違うので、ライバル意識などは全くありません。例えば、「中華を食べたい」「イタリアンを食べたい」のようにパン屋も気分で選んでもらえたらいいと思います。僕もほかのパン屋さんのパンを食べますし。食べたいものを食べたいときに、その選択肢の一つにゆうぱんをいれてもらえると嬉しいです。

―丸畑さん
ゆうぱんさんは、年配の方や男性のお客さんも多いイメージがあります。

―平尾さん
僕が若いとき、パン屋さんはおしゃれで入りにくい場所というイメージがありました。そこで、男性一人でも気軽に買いに行けるパン屋さんにしたいと思い、シンプルな店づくりを心掛けています。

―丸畑さん
今後、目指していることはありますか?

―平尾さん
自分が作ったパンが自分の店だと思っているので、お店を大きくするつもりはなくて。パンは少しずつ変わるかもしれませんが、自分が作ったものをこれからも出していきたいです。

―丸畑さん
今回は「まちのパン屋さんとふくし」ということで、ゆうぱんさんの話を聞かせてもらいました。皆さんが「おいしい」と食べるものや「しあわせ」を感じるものを作ることは大変だと思いますし、こだわりがないと続かいないと感じました。
私は福祉の分野で仕事をしていますが、福祉はモノづくりではありません。ゆうさんの話に、同じものを提供するために工程を変えるという話がありましたが、福祉の仕事でも、関わる人にしっかりと向き合うために、私たちも日々変化しながら対応しています。おいしいものを提供することやいいサービスを提供するために、自分自身を変えたり工夫したりすることは大事だと感じました。「パン屋さんとふくしのしごと」と聞くと全然違うように思いますが、共通点がありましたね。
そこでゆうさんに質問なのですが、「ふくし」ってどう見えていますか?

―平尾さん
今まで考えたことがなくて・・・。介護が福祉だと思っていました。実際はよくわからないところが多いというのが本音ですね。

―丸畑さん
私はゆうぱんさんにパンを買いに行くのですが、おそらくご近所のおばあさんだろうという方と店員さんがゆっくりお話している様子などをよく見かけます。そういう様子を見ていると、ここは地域の大事な場所だと感じていました。お店に行ってパンを買えば目的は達成されますが、その中でお話などの交流ができること、また、家に帰ってそのやりとりを思い出しながらパンを食べるということも素敵なことだなと思います。
福祉と言うと、「介護や施設」のイメージがある方も多いと思いますが、広い意味でいうと、そういうことが人の幸せであり、「ふくし」につながると私は思っています。



ここまでの話を聞き、参加者からの質問タイムが設けられました。
パンに関する様々な質問に平尾さんは一つ一つ丁寧に返答していました。また、その後、参加者同士で意見交換会が行われました。

参加者からは「僕は福祉の道に進みたいと思っています。好きでないと続かないと思うので、熱を冷まさないように、モチベーションを下げないように考えていきたいと思いました」、「福祉関係の仕事をしています。日々変化のある仕事で、環境は変わりますが楽しみながら仕事をしています。今回お話を聞いて、パン屋さんも集まりの場のひとつになるということが新しい発見になりました。そういった場が街にたくさんあったらいいなと思います」などと感想が聞かれました。



福祉works MANMAREの丸畑さんはイベント終了後、「今回のイベントでは、『ふくし』をあえてひらがなの表示にしました。漢字だとどうしても『施設』や『ヘルパー』という意味にとられがちなので、そうではなく、もう少し広い意味で捉えていただいて、『人の幸せ』や『暮らしの豊かさ』などのキーワードでたくさんの方に知っていただけたら嬉しいです。自分たちの生活の延長に、こういった社会課題があるということをみんなでじわじわと感じることができればいいなと思っています。また、団体の立ち上げからたくさんのボランティアの皆さんにご協力いただきました。学生さんには、これからイベント企画から参加してもらって、主体的にできるボランティアに興味を感じてもらいたいです。これからもここで広がりを作っていけたらいいですね」と話しました。

今回は、四国学院大学1年生の学生や新社会人の方が運営ボランティアをされていました。
普段は児童養護施設でボランティアをされている学生がこのボランティア募集を知り、お友達に声を掛けて3人で参加されたそうです。

ある学生は「学校でも福祉関係の勉強に励んでいるのですが、より視野を広げるために、学校の外でしか学べないことを学びたい」と話していました。

【編集部より】話を聞く前は、パン屋さんと福祉がどう関係しているのかな?と思っていましたが、「ふくし」を広い意味で捉えることで様々なつながりに気付くことができました。自分の周りのことから、「ふくし」を考えてみることで新しい発見があるのかもしれません。また、ボランティアに参加された学生さんのお話を聞き、将来の社会をより良くしたいという想いに感動しました。