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【瀬戸内国際芸術祭2022本島サテライト展示企画】Artists Talk Café 2022.10.26(水)

大盛況のうちに幕を閉じた「瀬戸内国際芸術祭2022」。丸亀市では、「本島」が会場となり多くの人が島と芸術に親しみました。
マルタスでも9月29日(木)から11月6日(日)まで、本島で展示を行った藤原史江さん、川島大幸さんのサテライト展示が行われました。その一環として、お二人を招きアーティストと実際にお話を楽しむ場「Artists Talk Café」を開催しました。

藤原 史江(Fumie Fujiwara)
2019 「第 22 回 岡本太郎 現代芸術賞展」観客投票 3 位 ( 川崎市岡本太郎美術館、神奈川)
2019 あいちトリエンナーレ関連企画「情の深みと浅さ」展( ヤマザキマザック美術館、愛知 )
2017  亀山アートトリエンナーレ(亀山市、三重)


川島 大幸(Hiroyuki Kawashima)
2019  「Venus Bound」 Whitespace(UK)
2019  「時間/彫刻 -時をかけるかたち-」 東京藝術大学大学美術館陳列館(東京)
2016 「発信//板橋//2016 江戸-現代」 板橋区立美術館(東京)
2014 個展 「川島大幸展」 ギャラリー現(東京)
2014 アーティスト・イン・レジデンス 「東海さるく」 リバーパル五ヶ瀬川(宮崎)




―司会
まずは簡単に自己紹介をお願いします。

―藤原さん
サンドペーパーに絵を描き、「モノ」から見た世界をその「モノ」が身を粉にして描くというシリーズを制作しています。「モノ」というのは、石が多いですが、種や木などでも描きます。マルタスでは黒板の作品を制作しましたが、こちらはチョークで描きました。

―川島さん
1987年、静岡県出身です。東京芸術大学の大学院の博士課程を出ました。その後、大学で石彫の教育研究助手を3年間勤めました。
今回の瀬戸内国際芸術祭では、本島の隣、「讃岐広島」に3週間滞在して作品を制作し、本島で発表しています。マルタスには、本島に関係する作品を3点と、個人的な活動として「GAZO」というアートブックを主軸に置いた4人グループの活動を行っているので、そちらのアートブックも置かせていただきました。

―司会者
今回の作品のテーマや制作背景を藤原さんから教えてください。

―藤原さん
サンドペーパーに描く技法というのは、「何画というのですか」「そういう分野があるのでしょうか」と聞かれることもありますが『テーマの上から技法を選ぶ』という形で、自分で考えて始めました。世界は広いので、同じようなことをしている方がいらっしゃるかもしれませんが、私の知る限りでは見たことはありません。
『路傍の石』は、山本有三による未完の小説のタイトルですが、価値のないものや何か注目を受けることはないもの、という意味で慣用句としても使われます。私は、路傍の石や何かの欠片、部品の壊れたものなどを使い、彼らの色で表現し、そういった「モノ」から見た視点の世界を描いています。
サンドペーパーが削れて描かれているのではなく、実際には描く「モノ」が削れることでサンドペーパーに粉が乗り、描画ができています。まさに路傍の石たちが身を粉にしているのです。これが硬い石だと細密に欠けるのですが、柔らかい石だとざっくりとした描き味になり、色も石のそれぞれのカラーによって変わります。カラーは「個性」という言葉でも使われると思いますが、それぞれの石のカラーと個性で描くことで世界が変わって見えるのです。そこで、本島での作品を「唯一無二の視点から」と題しました。どんなに注目されないモノたちでも唯一無二の視点を持っていて、すぐ横にあるものから見ても、世界は違って見えます。それは私たちと同じような感じがするなと思いました。人間界でも、それぞれ視点の多様性がとても大切で、人の来歴や住む場所が違うとそれぞれの視点が出てきます。その視点を「モノ」に重ねているのです。
本島は、石が有名だということで、石を中心に制作しましたが、私の出身である名古屋では、道に落ちている鉛筆やプラスチック片などを使うこともあります。また、サンドペーパーにマッチで描くシリーズもあります。マッチはすぐ燃え尽きるので、短い命の象徴のように感じていて、夏草や夏の虫、その時期にしか咲いていない花など命の短いモノたちを描くなど、テーマ性を重視した絵画を制作しています。
もともとは洋画で、油絵や木炭デッサンをしていました。木炭は焼けた木切れですよね。あるとき海岸で焼けた木切れを見つけたことがあります。多分不要なものを焼いたあとのものでしたが、焼けた木切れだし描けるのかなと思いチャレンジしましたが、実際は描けませんでした(笑)画用木炭というのは柳や桑など、考えられた素材で焼き方も考えられて作られているので商品として成立しているというのを実感しました。ただ紙には描けなくても、白いサンドペーパーには描けました。そういう意味では、木炭から派生したところはあります。
また、洋画出身ですが、貧乏で油絵具が買えないという時期もありました。木炭を人からもらい描き始めたことがドローペイントの始まりです。濡れたものを筆で塗る「ペイント」から硬いもので描く「ドロー」へ転身したのもきっかけだったかなと思います。



―参加者
石で描くときに、藤原さん自身はどういう気持ちで描いていますか?

―藤原さん
面白い石が落ちていたり、変なところに石が落ちていたりすると、そこから石に注目します。石を使って描いていると意外なことがけっこうな頻度で起こります。例えば、真っ赤な石で描くと赤くなるかなと思ったら白くなったり、途中から違う層が出てきて、赤茶の錆のような色が絵に交じり始めることがあったりします。やってみないとわからない石の側面が見えて面白いです。
また、自然界に落ちている石には必ず正面があります。かっこよく見える面や明らかに裏面だとわかるときがあって、そういうのを顔というのですかね・・・。表が自然石にあることを発見してからはかっこいい方を額装するようにして、その石の面子を保ってあげています(笑)

―参加者
じっくり石をみてみようと思います。ありがとうございました。たくさんある石の中からどうやって選んでいるのですか。

―藤原さん
石やモノに呼ばれることもありますね。でも、あとでもう一度見ると、「なぜこれを選んだのかな?」と思うものもあります(笑)きっとそのときはそれが「おもしろい」と思っていたのでしょうね。
白い石ばかりの中に黒い石が落ちていたり、道の真ん中に転がっていたり・・・そこで目に留まる石が多いですね。今回も、たくさん石を拾ったり写真を撮ったりしたのですが、その中から作品になっているのは、氷山の一角です。
ちなみに、本島で展示している作品には、三角の石があるのですが、ユーチューブの再生ボタンみたいでおもしろいなと思い拾いました。



―参加者
もともと、洋画をされていたということですが、どうして石を使おうと思われたのですか?

―藤原さん
本島は、石の産地として日本遺産として登録されています。そこで、本島で作品を発表するアーティストは、本島の名産である「石」を使った作品やテーマとしました。
サンドペーパーというと特殊なものと思われそうですが、私としては「ざらざらした紙」というイメージです。木炭紙もざらっとしていて、木切れや木炭で描きます。サンドペーパーも、そういう「紙」の延長線上だと思います。

―参加者
丸亀城の作品を見たときに、石垣の石の破片が下から見上げているのがおもしろいと思いました。夏空の白い感じなど、淡さはどのように出していくのですか?

―藤原さん
丸亀城の石垣の一部が壊れ、今修復に力を入れていると思います。どうしてもはまらなくなった破片を特別に頂き、それを活かして作品ができないかという打診がありました。そこで、石垣や石組の場所から見た丸亀城を石垣の石で描くという作品に挑戦しました。当初の案ではもっと小さな作品にする予定でしたが、石垣やお城の屋根の造作が細かく、あのような大きな作品となりました。石垣の細かさを描くのが大変でしたが、かなり忠実に描いています。
石垣を描くのは細かいのもありすごく大変で、雲を描く方が楽しかったです。すると、作品を見た方から「雲が魅力的ですね」という感想が多くて、やっぱり楽しく描くことが大事だなと面白く感じましたね。
雲は、手でぼかしているところもありますが、塗り込んで、塗り込んで、淡さを表現しています。がんばっても色が出ないものもありますが、そういうときには、フィキサチーフというデッサンやコンテで使う絵の定着液を使います。そうすると色が沈んでしまうのですが、沈んでグレーになったものを、また描いてと繰り返すという作業をして白を出しているものも多いですね



―司会者
次に川島さんの今回の作品のテーマと制作の背景を教えてください。

―川島さん
2019年、日本遺産に備讃諸島の石文化が登録されたことで、石に関する作品を発表してほしいと依頼があり、今回4作品を展示しています。本島の隣の「讃岐広島」に3週間滞在して制作しました。普段、石を使った作品や石を彫った作品はあると思いますが、私は、「石を使った作品」「石を彫った作品」「採石されて石がなくなった空間」「石をスキャンしてデータにして石の外側を仮想空間上で作品化したもの」の4つのアプローチで石について考えてみました。
展示した作品は見てもらえますが、展示までの過程はなかなかお見せできないので、この機会に本島にある作品の制作過程をまとめてきました。
こちらの作品がガイドブックに載っているもので讃岐広島の小さな石「栗石(ぐりいし)」を使った作品です。栗石は埋め立てに使われる石ですが、それらの重さを一つずつ量りスプレーで記録していきました。すごく暑くて大変な作業でしたが、僕としては、自分の手で持てる重さと決めた中で、1㎏ちょうどの石を見つけることを目標にしました。制作していくと1㎏の石が2つ見つかったので、自分の中でそれを貴重なものと位置付け、本島とマルタスにそれぞれ展示ケースに入れて展示しました。展示ケースのものと野外に設置したものを対比させるイメージで今回展示しています。
讃岐広島では墓石用、建築用、土木材として埋め立てに使う石が採石されていますが、それらは私たちが決めた用途によって価値が位置付けられて使われたりしています。そこで、僕は用途ではなく、重さという価値でこれを展示しました。展示期間後は、屋内にある石も屋外にある石もまとめて、埋め立てていただく予定です。この瀬戸芸のオープン期間中だけ価値に差が生まれる作品となっています。



―参加者
1㎏ちょうどの重さの石の価値、表現が面白いと思いました。量りの目盛りが書かれていないのにはどのような意味がありますか?

―川島さん
もともとは量りの目盛りが見えるようになっていましたが、作品では目盛りの部分を消しました。今回は、上に乗っている石に「1.0000」と書かれているだけで、それが何の数字かというのがぱっと見ただけではわかりません。数字と量りが合わさることでそれが重さを表しているとわかるようにしました。この作品は、量りを記号として扱っていて、物(数字)と物(量り)の関係で意味(重さ)が生まれるようにしています。

―参加者
讃岐広島というと青木石かと思っていて、栗石というのは見たことがありましたが注目したことがありませんでした。どうして栗石で1㎏を探そうと思われたのですか?

―川島さん
僕たち石を彫る側としては大きな石は普段注目して見るのですが、小さな石はそうではありません。そこで何かできないかなというのが一番にありました。用途によって価値が変わるということにも少し思うことがあったので、大きな石で作品にするというのとは別で、埋め立てに使われる小さな石もなにかしら面白いものになるのではないかというのを表現したいと思いました。



―参加者
数字がスプレーで描かれていましたが、あちらは何かで型取ってからスプレーをされていると思いますが、毎回量ってから型を作っていかれたのですか?

―川島さん
そうです。透明なステンシルを自分で作って、デジタル量りで正確な重さをはかって、スプレーで記録していきました。

―参加者
石は何個くらい量られたのですか?

―川島さん
数はわからないです・・・。とにかく1キロの石を見つけたいと必死の思いでした。

―司会者
ほかの作品についても教えてください。

―川島さん
本島会場の入口のところにおいてある作品について説明します。一見すると原石が置かれているように思いますが、実作品下部の角材の長い部分(厘木、りんぎ)を掘り出し、伝統的な技法で割ったところ、黒色火薬で割ったところ、現在の技法であるドリルで割ったところという3つの割り方をしした作品です。



これが彫る前の原石です。展示作品は、1tくらいですが、彫る前は2tくらいの原石でした。厘木は石を保管、移動するときに下に置くのですが、石が倒れないように2本の厘木を置く位置は大体決まっています。
両サイドは、石を割ってあります。伝統的な技法で割る面は、讃岐広島の資料館に置いてあった職人の方の見本を見ながら、今の職人の方に相談してチャレンジしました。側面から見たときに、食パンを反対にした形に矢穴がなっているとすごく腕のいい職人の方がしているということらしいです。自信はあったのですが、これはとても難しい作業でしたので職人の方にも手伝ってもらいました。
石には、昔は藩の刻印があったそうですが、現在はステンシル(スプレー)で石の種類と採石場、石の品番、管理番号というのが書かれます。最後にそれらをスプレーしていただいて作品として完成しました。



あとは、「どうやってあの中に入れたのですか」という質問も多かったのですが、搬入の様子をみてください。1.5t用のハンドリフターを使いながら少しずつ移動していきました。

―参加者
この形にはもともと考えて彫られたのですか?それとも原石の青木石を見てから彫られたのですか?

―川島さん
この「RAW STONE」シリーズで伝統的な矢穴の技法を使うのは初めてだったので、チャレンジしたいなというのがありました。このシリーズは、自分で決定する部分はほぼなくて、すべては石が決定してくれます。それが面白いところで「造形」という行為に入ると人を作ったり、ほかの動物を作ったりと「こう彫りたい」という意思が入ってくると思いますが、これは、例えば厘木(りんぎ)を置く場所は石の重心と関係しているので、置く位置や石に対して倫木のサイズも自ずと決まっていきます。
割る位置も石の方が決定してくれます。「石の目を読む」というそうですが、職人の方と話し合いながら作っていきました。

―参加者
川島さんの作品は展示のあとは埋め立てると話されていましたが、それは自然に帰ることで、SDGsだと思いました。藤原さんも自然の中にあるものを使って制作をされていますが、これから次の時代につなげることや環境に優しいものだとか、そういう思いはありますか?

―川島さん
それは、あまり考えてはいません。ある基準を持って価値が生まれるっていう話で、人それぞれ違った生まれもありますし・・・。今回の栗石に関しては人と重ねた部分があり、最後は土に返って戻ってもいいのかなという感じですね。今回に関しては、SDGsは考えていませんでした。

―藤原さん
時代や状況に押されるようにして、そうしたことがみんなの頭の中にあるようになってきたのかなと感じます。「SDGs」と言ってしまうと一つの言葉にまとまりますが、そこにまとまるかまとまらないかはっきりしないものがあって、時代とともにある表現というか、そうしたところも現代美術になっていくのかなという感じもします。



【編集部より】「瀬戸内国際芸術祭2022」の秋会期の期間中ということもあり、実際に本島の作品を見られた方からの質問が多く上がっていました。また、この日以降に本島に行くという方もおり、お話を聞いてから見ることで視点が変わり、より瀬戸芸を楽しむことができたのではないでしょうか。ゆっくりと時が流れる夜のマルタスで、アートを楽しむ大人のひとときとなりました。