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こども×アート 遊びから生まれる創造の種 2022.10.16(日)

「特定非営利活動法人アーキペラゴ」は「芸術士®︎」と呼ばれるアーティストを保育所・幼稚園・こども園に派遣し、子どもたちの創造性を育む活動をされています。高松市での活動が主でしたが、最近では県内各地に活動を広げ、今年度は丸亀市の保育所などにも芸術士の派遣が行われ、多くの子どもたちがアートに触れる機会が広がっています。



マルタスでは、10月1日から31日まで「子どもたちのきらきらな日常~芸術士®︎が目指すもの~」と題した写真パネル展示が行われました。その一環として、10月16日(日)、同法人事務局の小馬絵美子さん、芸術士の松尾由美さん(通称ぴんちゃん)を招き、子どもとアートの関係性や子育てについて聞く「こども×アート 遊びから生まれる創造の種」を開催しました。



「芸術士®︎」の活動

芸術士は、子どもたちの無限の可能性を信じ、子どもたちの感性と想像力を最大限に引き出す手助けをします。同法人には、現在28名の芸術士が在籍し、高松市を中心に保育所などに「芸術士のいる保育所」が展開されています。

―小馬さん
アーキペラゴは高松市を主軸に活動を行っていますが、芸術士の派遣事業は、2010年の「瀬戸内国際芸術祭」のスタート時期に始まりました。そのころ、高松市や香川県全体が芸術文化のまちづくりを目指して動き出し、国の「緊急雇用創出基金事業」が高松市の事業に受託され、始まったのが「芸術士のいる保育所」です。当初は期限付きの活動の予定でしたが、その後も活動を続け、今では県内各地に広がっています。
1枚の企画書からスタートしたのですが「アーティストが保育所や幼稚園に通ったら子どもたちはどうなるかな?」という考えと「それがアーティストの仕事になったらいいな」という思いを込めて高松市に提案したところ、保育所だったら可能ということで2009年11月から同事業は始まりました。最初は8人のメンバーで保育園に通い出し、私は半年ほど遅れて参加しましたが、初めて保育園に行ったときに「子どもたちにはこんなにすごい力があるのだ」と驚きました。素晴らしい発想力があり、これを世間に伝えていきたいと感じました。
そこでアーキペラゴでは「子どもたちの可能性の素晴らしさを伝え続けていく」という約束をしました。子どもたちと関わる上で、絵画や運動など技術の伝承ではなく、子どもたちと表現を共有する場を作り、子どもたちの中にあるものを引き出したいと思いました。

子どもたちの探求心を深めていくために、芸術士にはさまざまなジャンルの専門家がいます。それぞれの得意な専門性を持ちながらサポートし、子どもたち一人ひとりやその園に対してのオーダーメイドの活動をしています。

子どもの可能性とアート

芸術士は、子どもたちの可能性を信じ、感性と想像力を最大限に引き出す手助けをしています。それは、あれこれと指示するのではなく、子どもたちを見守り、励まし、豊かな感性を育てていくことです。

―小馬さん
この活動の母体になったのがイタリアの幼児教育「レッジョ・エミリア・アプローチ」です。これは、個々の意思を大切にしながら、子どもの表現力やコミュニケーション能力、考える力を養うことを目的としています。
「芸術士のいる保育所」は、同教育を高松モデルにした独自のものです。自治体が芸術士を各園に配置するシステムが全国で初めての取組で、ほかの自治体でもあまり例がありません。ではなぜ手段が「アート」だと思いますか?
教育学者で佐藤学さんという方がいるのですが、その佐藤先生が提唱しているのが「学びのプロセスはアートである」ということです。人、モノ、新しい世界との出会いから新たな気づきが生まれ、そういう哲学を持つことで、アートは学習にとても優良であるとおっしゃっていました。
それから最近よく「SDGs」という言葉を耳にしますが、これを達成するためにアートがとても優良なんじゃないかという考えもあります。現代美術家の日比野克彦さんは「アートには心を感動させる力がある」と話しました。「何かをしよう」と動いたときに、アートでみんなを引き付けたり、参加してもらったりするきっかけにすることができます。
コロナ禍で、この先に対する不安やどの情報が正しいかわからなくなることがあると思います。そんなとき、自分が見て、自分で確かめて、自分なりに考えて自分の芯をもつということが有効で、アートを通して考え方や思考力などが養われやすいのかな、と思っています。



丸亀市での活動がスタート

今年度より、丸亀市の一部の保育所でも芸術士の派遣事業がスタートしました。今回のトークショーには、実際に芸術士の方と活動をした保育所の先生の参加もあり、芸術士と活動をすることで考えが変わったところもあったようです。

―小馬さん
JA共済連香川の地域貢献活動の一環で、香川県内のほかの地域にも芸術士の派遣ができるように補助してくださることになり、そちらを丸亀市に提案したところ「ぜひ、やりましょう!」と言ってくださいました。そこで、今年度から丸亀市への派遣を行うことができました。
高松市では十数年活動をしてきて、保育所や保護者の方にも芸術士の活動はかなり浸透してきています。それはとても嬉しいことですが、新鮮さがなくなってきていると感じることもあります。今年度、初めて丸亀市で活動をして、丸亀市の保育所の先生方が興味を持ってくださっているということが芸術士にとっても新鮮で、刺激的で意欲につながったと聞きました。ウェルカムな雰囲気で嬉しく、楽しんだようです。

―ぴんちゃん
保育所などでは、あるお子さんに対して先生が悩むこともあると思います。今まで活動をしてきて、そういう子は芸術士と話が合うことが多いと感じています。一緒に活動していくことで、子どもたちとどんどん仲良くなり、子どもたちの新たな一面が見えることも多いですね。違う面で見られる人が一人増えるだけで、きっとその子は「認めてもらえた」と思えて、価値観が変わってくると思います。いつも見ている人だけでなく、違う人が入ることでその子の見える面が増える、違う風が入るという確信があります。
芸術士が入ることで子どもたちの経験値が上がります。今まで出会わなかった経験がその子の中で重なるので、その子の人生が変わっていくと思います。

―参加者
私は、丸亀市の保育園に勤めています。丸亀市での事業が始まって、ぴんちゃんに保育所に3回来ていただきました。私自身、何十年と保育士をしていますが、造形活動に関して「作品を作らないといけない」という悩みがずっとありました。しかし、ぴんちゃんと出会い「作品や結果を求めなくていい」と思うようになりました。それは、今一緒に働いているほかの保育士にも伝わっていると思います。
子どもたちには、アートの体験を通し、指示待ちではなくて自分で考えて行動ができるようになってほしいです。その入り口をぴんちゃんに教えてもらいました。



芸術に触れる

子どもたちだけでなく、先生にも影響を与える芸術を通した活動。子どもたちと一緒に楽しみながら、具体的にはどのように接しているのでしょうか。

―ぴんちゃん
私は、物理的に子どもと同じ目線になることを意識しています。そうすることによって、見えるものが変わり、本当にその子が何を見ているかわかります。そんなときは、「そんなところに目がいったの!ぴんちゃんには見えなかったよ!」と子どもたちと話します。
小さい子はきょろきょろといろいろなところをみています。きっとそこに目線を落とすと子どもたちと同じものが見えてきます。
あとは、子どもたちを褒めるときに「上手だね」という言葉を使う人が多いとと思いますが、私は「あなたの作品のここが好き」と具体的に伝えるようにしています。また、私は、子どもたちに「どう思うの?」とはあまり聞きません。例えば、ぐるぐると円を描いているものに対して「何を描いた?」ではなく、「このカーブがいいね!」「この線の勢いが素敵だね!」と話しかけます。そうしたら子どもたちからいろいろな話をしてくれます。何を描いたのかわからなくても、それが最高に素晴らしいですし「芸術」だなと感じます。
「秋って何色?」と子どもに聞くと、子どもたちからは黄色や青色、紫色などいろいろな答えが出てきます。一つじゃなくていいですよね。何色も正解で、聞く側が「いろいろな色があっていいんだよ」と認めてあげることが大事だと思います。
小さいころからの自己表現は本当に大切で、やってはいけないことは「アート」にはありません。だからアートを通して、自己表現を知ってほしいと思います。



アートを通して感じる

「アート」と聞くと、高級なイメージがある方もいると思いますが、高価な絵画や芸術品だけがアートではありません。考え方や気持ちにも「アート」に通ずるものがあるはずです。小さいころからそんな考え方を自然に身につけることができたら素敵ですよね。

―小馬さん
表現やアートには垣根がありません。描くことや歌うこと、創造することは子どもたちにとっても垣根がありません。そんなアートのきめの緩やかさや大らかさが、私はすごくいいなと思います。大人にとっても心が癒されることですよね。
大人になると「自分がこうじゃなきゃならない、そうなるために頑張らなきゃ」「できなかった自分はだめだ」などと思ったり考えたりすることもあると思います。
そんな中で、アートのような何かを決めない世界や概念、ふわっとした考え方は、心に思い描くだけで癒しになります。子どもも大人も癒されながらその時間を共にし、心を癒して解放してほしいです。

―ぴんちゃん
昔の子は好きなことを好きなようにチャレンジして、危ないことは大人に止められる子が多かったですが、今はそういう子がすごく少ないと感じています。「これはやっていいの?」「次はどうしたらいいの?」などとすごく受け身の子が多く、それは、様々なマニュアルがありすぎるからなのかなと思っています。私はそれがとても心配です。好きなことができる時期は就学前しかないので、まず好きなことをやって、失敗をしてみる。そして、その失敗の意味がわかることが必要だと思います。失敗は、「しよう」としてできることではありません。「三つ子の魂百まで」と言いますが、この言葉のように、小さいうちに大人が認めてあげることが大切だと思います。皆さんにもそれを意識してほしいなと思います。

―参加者
私は1歳3か月の子どもがいます。子どもに対して「上手」「天才」という言葉で褒めてしまっていたので、これからは「ここができるからすごいね」「ここが好き」というのを細かく伝えていきたいと思いました。
また、仕事では高齢者や障がい者の方のリハビリ、マッサージをしています。施術を続けているとマンネリ化することがあって、リハビリを頑張っていた患者さんも「これくらいでいいか」と思ってしまうことがあるようです。
トークショーを聞いて、「子どもの可能性」を施術する者として「患者さん」にあてたときに、患者さんの可能性も無限大でまだまだよくなれるのではと感じました。だから、施術家としての目線を変えて新しい風を入れ、引き出しを持っていきたいと思います。今日聞いたことを会社でも共有したいです。



今後の展望

芸術士の活動を通して、子どもたちの未来について考えるアーキペラゴの皆さん。今後の活動について、お二人の視点でお話していただきました。

―小馬さん
子どもたちをのびのびと見守るような環境は、全国的にも求められていると思いますし、関わりたい人もたくさんいると思います。アート的な活動をされている方も全国にたくさんいますので、芸術士の取組がもっと広がってほしいです。
また、今年度から丸亀市に派遣が始まり、ほかの地域でも始まりつつあることで、芸術士が足りない状況になってきています。現在、芸術士のリサーチや募集を出していますが、少しジャンルを広げようと思っています。「芸術」というジャンルだけでなくて「クリエイティブ」な活動、そのような考え方や活動が芸術士になれる人材だと思いますので、気になる方はぜひご検討ください。

―ぴんちゃん
高松市で十何年芸術士の活動をしていますが、あるお子さんに、「ぴんちゃんは小学校に来ないの?」と聞かれました。よく話を聞くと、「悩んでいることがあって、気持ちが言える先生がそばにいたらいいな」ということでした。だから、最近思うのは、月一回でもいいから小学校にも行けないかなということです。
あとは、危険物として保育から排除するものの中に「ビー玉」があります。私としては、子どもたちと仲良くなる手段としてビー玉活動を入れていますが、先生たちはすごく不安がって、「ぴんちゃん、ビー玉の個数を数えていますか?」と聞かれることもあります。
でも、ビー玉は透き通る感じが素敵な日本文化だと思います。なくなっていく日本の文化を子どもたちに紹介していきたいですね。



【編集部より】『子どもの可能性は無限大』よく聞く言葉ではありますが、その可能性を「アート」を通して引き出していく素敵なお話を聞かせていただきました。芸術士の活動について気になる方は、下記のリンクをご覧ください。

【特定非営利活動法人アーキペラゴ】ホームページ(新しいウインドウが開きます)