レポート

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世界を広げる折紙 2022.6.1(水)~30(木)

6月1日(水)から30日(木)、折紙作家の勝川東さんによる展示「世界を広げる折紙」が開催されました。
勝川さんは、1枚の紙を折り、さまざまな作品を生み出します。また、材料は紙だけではありません。作品をより魅力的に表現するために、銅やガラスなどを活用します。
展示期間中は、たくさんの人が今までに見たことのない「折紙」作品の前で足を止め、勝川さんの世界観を楽しみました。
今回の作品展は、ある野望の第一歩と話す勝川さん。折紙との出会いや折紙に対する思いを聞きました。



折紙が好き

勝川さんは、千葉県松戸市で生まれ、柏市で育ちました。虫と折紙が大好きな勝川少年は、4歳の頃からカブトムシやアゲハチョウの幼虫を育てていました。また、幼稚園では折紙で遊ぶことが大好きで、手裏剣などを折って楽しんでいたそうです。そんな勝川少年を見て、お母さんがプレゼントしたのが、少し難解な、カブトムシを折ることができる折紙の本。そのうち簡単なものに、ご両親と一緒にチャレンジしたそうですが、そのときは勝川さんだけが最後まで折ることができなかったそうです。

―勝川さん
両親は折ることができたのに自分には折れなかったという悔しさもあり、その本に掲載されているものを全部折ってみようと心に決めました。そして、幼稚園の年長の頃には、その本に載っている虫は全部、へたくそながら折れるようになっていました。その時点で、なかなか普通の人は触れないレベルの折紙でした。卒園してからも、「折紙を辞める」という選択肢はなく、自分は折紙が得意だという自負はずっとありました。かといって、熱中してずっと折紙をしているというわけでもありませんでした。本屋に行ったときに難しい折紙の本があれば、追加で購入し折ってみるぐらいで、だらだらと中学生くらいまで続けていました。
でも、中学2年生のときにあるきっかけから、「自分で作品を創作したい、ちゃんと折紙が上達したい」と思うようになりました。思い返すと恥ずかしいくらいのものですが、自分で折り方を考えたり、今まで以上に難しいものにチャレンジしてみたりして、高校生の頃には最低限「折紙がうまい」と言える部類になっていたと思います。
「東京大学折紙サークルOrist」のことは、進学を考えるより前から知っていて、東京大学に行きたい理由の一つになっていました。無事、東京大学に入学し、「東京大学折紙サークルOrist」に参加しましたが、部活にも入部していたので、サークルにはほぼ行きませんでした(笑)でも、折紙は一人でできるので、電車に乗っているときなどに好き勝手折っていましたね。
サークルでは、展示会と文化祭、半年に1回の機会で作品を披露する機会があり、さまざまな作品を見たり、たくさんの人と接したりすることで自分の意欲と刺激になり続けていましたね。



モンハナシャコの作品の完成

展示作品の中でも、特に作品の前で足を止める人が多かったのが、表面と裏面を見ることができる「モンハナシャコ」の作品。今にも動き出しそうな足や尻尾など、細かなところや色も鮮やかに表現されています。この作品が、勝川さんの折紙人生のターニングポイントとなったそうです。

―勝川さん
うまくなったなと感じることができたのは、「モンハナシャコ」ができたときですね。
折り方を考えるときは、そのモチーフの特徴を捉えて、そのパーツを紙でどう再現して揃えるかを考えます。大学生になってから、そのプロセスが洗練されていきました。そして大学2年生の秋に、モンハナシャコに取り組みました。この時それまでで一番、高い再限度でカッコよく折りたい、と思っており、そしたら折紙の神が舞い降りたのか、すごくスムーズにできました。折紙としての構造の良さと、完成形の色や形のまとまりの良さから、折紙がすごく上手な方の目にも留まりました。あの作品がまさにターニングポイントでしたね。



折紙を取り巻く環境

複雑な折紙の歴史はまだまだ浅いですが、日本初の折紙サークルが「東京大学折紙サークルOrist」です。勝川さんは、サークルの10代目として入部し折紙の腕を磨きましたが、最近の折紙界の成長は目まぐるしいそうです。また、折紙の楽しさを語ってくれました。

―勝川さん
私が小さい頃とは違い、今はSNSがあったり、難しい折紙の本が書店にたくさん並んだりするようになってきました。そのためいい参考資料が増えて、今の子どもたちのレベルはものすごく高くなっています。
私は、とにかく折紙を続けられたことが良かったです。小さい頃に多くの人が折紙と出会いますが、だいたいどこかでやめてしまうんですよね。私は、折紙が得意だという誇りがあったからか、折紙から離れずに済んだように思います。折紙をしていて一番楽しいのは、試作をする中で、「いけそう」というのが見えた瞬間です。そうして試作が終わった瞬間の「もうモチーフにしか見えない」という興奮はすごいです。カブトムシを見つけて喜ぶ少年そのもの、むしろそれが増幅されている感じです。



折紙の魅せ方

勝川さんは、折紙の作品自体はもちろん、台座などの展示方法にもこだわっています。

―勝川さん
折紙なので基本的にはもちろん紙を使うのですが、紙以外の素材で作品を折ったり、台座を工夫したりすることで、折紙の世界は一気に広がります。今回の展示でも、銅を使った作品を展示しましたが、それにより作品が彫刻みたいな存在感を放ち、紙とは違った雰囲気になります。
他には、ステンドグラスにも取り組みました。ガラスも好きで、折ることはできなくても、折紙の展開図を展示する際に使えるのでは、と挑戦しました。素人ながらに制作するのはなかなか大変で、手がボロボロになりながら、日曜日を丸々2回潰してしまいました(笑)よく形になったなと思います。

そして、折紙自体に使える素材は限られますが、台座にはなんでも使えますので、木、石、レジンなどを活用しています。作品を引き立てながら、折紙の世界を広げられるように工夫しています。



香川をベースに

千葉県に住んでいた勝川さんですが、この春、香川県三豊市にベースを移し、新たな生活を始められました。香川県の自然がすごくいいと笑顔で話します。

―勝川さん
香川に住み始めたのは最近です。約2年前に直島などに遊びに来たことがありましたが、約1年前に本職の関係で四国に携わり始め、そのまま移住しました。
移住を決意したのは、すごく簡単に言うと三豊市と丸亀市にたくさんの友達ができたことです。こちらでできた友だちは、何かしら自分で仕事などをしている人が多く、地元民も移住者も、素敵な方ばかりでした。私みたいな変人が好きに振舞うと、年の近い人には引かれてしまうことが多いのですが、こちらの人は面白がってくれます(笑)素で生きていられて、とても居心地がよいです。
あとは、やっぱり自然がいいですね。実家の周りにもありましたが、香川ではどこをみても自然であふれているのが最高です。多方面で、人間らしく心地よく生きていけるのが、香川県なのだと感じています。



折紙を広げる

折紙は日本の伝統であり、皆さんも小さな頃に遊んだ思い出があるのではないでしょうか。簡単には折れない作品や見たことのない作品に多くの方が足を止め、折紙の世界を楽しんだ今回の展示会。
インタビューの最後に、勝川さんに目標をお聞きしたのですが、返答は思わぬものでした。

―勝川さん
実は、折紙について目標はありません。でも、一つテーマとしているのが、『折紙の社会的認知をごっそり変えたい』ということですね。
別にみんなが折紙の新たな折り方を自分で考える必要はないと思いますし、みんなが折紙をやる必要もありません。でも、折紙の良さをわかってくれる人が増えたら嬉しいです。また、今は子どもの遊びのイメージがどうしても強いですが、折紙の価値を大人や社会が認識して、家や学校で子どもに触れさせるのが当たり前となり、好奇心を広げるきっかけになったらいいなと思います。今回の展示は、その野望の第一歩ですね。



【編集部より】取材中、勝川さんに折紙をいただき、ある作品を折ったのですが、久々に触れる折紙はとても楽しく、ついつい熱中してしまいました。ぜひ、皆さんも、折紙の深い世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。