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お笑いコンビ たんぽぽ 川村エミコ オンライントークイベント「ことばと記憶」2021.10.2(土)

10月2日(土)、お笑いコンビ「たんぽぽ」の川村エミコさんによる、オンライントークイベント「言葉と記憶」が開催されました。
川村さんの初エッセイ「わたしもかわいく生まれたかったな」は、幼少期に体験した楽しかった思い出、日常のふとした会話などを冷静かつ俯瞰的に見つめ直し、その時の心情を綴っています。
普段、何気なく聞き流すことや言ってしまうこと、使っている言葉には、話す側と受け取る側によってそれぞれの解釈が生まれます。それは時間の経過とともに変化するものではありません。ずっと昔に言われた「ことば」がなぜか引っかかっている、何気なく発して後悔した「ことば」…。そんなモヤモヤを抱えているのはあなただけではないかもしれません。今回のオンライントークショーでは、川村さんをお招きし、「ことば」のモヤモヤについてみんなで考えました。

2部構成で行われたトークショーは、第1部では、川村さんがエッセイを書くことになった経緯や制作秘話、幼少期からの川村さんの考え方などのお話しを、第2部では、参加者からの「ことば」に関する悩みや質問に対して、川村さんにお答えいただきました。

初エッセイができるまで

―川村さん
2019年6月、「私の小学生の頃のあだ名が“粘土”だった」というエピソードをある番組で話しました。ほかにもそのようなエピソードをいくつか話したんですが、収録中、共演者の石田衣良先生が、「その話、本になるよ!」と3回言ってくださったんです。嬉しいなと思いながらも、テレビだし、ノリだけで言っているのかな…と。でも、収録後、勇気を出して廊下で石田先生を出待ちして、「先生、私が本を出せるかもしれないというのは本当でしょうか?」としどろもどろになりながら聞いたんです。すると石田先生が、「ああ、なるよ!本になるよ!」と言ってくださって。さらに集英社の編集の方のお名刺をくださったんです。その方に、私の想いを書いたお手紙を書かせていただいて、マネージャさん経由で送ってもらいました。そうしたら、編集者さんが打ち合わせしてみましょう、と言ってくださって。その時に、「川村さん、自分で書いてみましょう」と言われました。「長い文章を書いたことないけど…、どうかな…」とも思ったんですけど、せっかくだと思い、チャレンジすることになりました。いきなり1冊の本にすることは難しいということで、ネットで2週間に1回、配信することにしましょう、という形で連載が始まりました。それを2年くらい続けて、本になったという流れです。
本は大変だと身に染みましたね。私は、思い出を絵で覚えているタイプで。温泉の源泉を掘りあてるイメージなので、源泉が見つかれば書くのは早いですが、思い出すまでに時間がかかりましたね。
でも、書いたことで記憶が記録になり、記録がまた記憶になりました。小さいときのことを「覚えていないといけない」と、思い出で人生を楽しんでいる部分がありましたが、書いたことやアウトプットしたことで心のクラウドに上がったので、「いったん忘れていいよ」とスッキリしました。書くことってすごくいいことだと思いましたね。
エピソードを話すことはテレビなどでも多かったですが、それが本になるきっかけにはなりませんでした。でも、石田先生と出会ったことで文章にすることになり、どこにきっかけがあるかわからないなと思いましたね。自分の中にある大事なものはアウトアップして、「そんな捉え方あるんだ」とか、まったく違う方向からチャンスがきたりもする。言っていくということは大事だと思いましたね。



書くことで知る新たな自分

―川村さん
アウトプットできるのは、声や会話だけではないですよね。私はメモ魔で、紙やペンに助けられてきました。
私は、モヤモヤから脱するために、手帳などにメモをします。書いていない日ももちろんありますが、そういう日は何もなかった日で、書かなくて良かった日だと思うようにしています。自分を思い詰めないようにすることを大事にしていますね。こういう話をすると「毎日書くコツは何ですか?」とよく聞かれますが、書かない日があってもいいし、「知らせがないのがいい知らせ」と、自分を緩めて考えてあげることが、日々を穏やかに過ごすポイントの1つだと思います。
私は、書くことで“自分が楽しいな”と思うことや“好きなこと”がより明確になりました。
私は、小学生の頃ストップウォッチが好きで、学校にも持って行くらいでした。朝、チャイムが鳴ると、ストップウォッチをスタートし、先生が職員室から教室に来るまでを計っていました。下二桁がゾロ目だとラッキーな日だなとか楽しんで。そういったことを書いていくと思い出し、さらに記憶が色濃くなっていくんです。そして人に話すことができたりしますね。あと、書くことで新たに気付くこともあります。私は一人でいることが多い学生でしたが、エッセイを書いて気付いたのが、私は一人上手なんだなと。一人でいることイコール寂しい・悲しいじゃないことに書くことで気付きました。
書くとより考えて、考えると違う角度の考え方が見えてきます。自分で気付かなかった気持ちに気付くこともでき、自分のことを深く知ることができたと思います。そういったことを大事にしてこれからも生活していきたいですね。記憶が記録になり、書くことでさらに色濃い記録になる。日々を豊かにすることなのかなとすごく思います。
あとは、自分の身近から楽しみを見つけることがいいのかなと思いますね。おすすめは、一日のTodoリストをビンゴにしてみることです。一個ずつできたら消していき、ビンゴが揃ったら自分の大好きなアイスコーヒーを飲むなど、一人上手に過ごすことが大事だなと。自分自身の楽しみ方を見つけることがすごくいいことだと思います。

ネガティブはポジティブでコーティングする

―川村さん
つらいことがあったとき、全部とらわれない、飲み込まれないことが大事だと思います。私は29歳の頃、借金が増えてしまい、これ以上増やせないし親にも頼れない、無理だと思って、アパートを引き払ったことがありました。29歳というと、周りは結婚や仕事に悩んでいるときなのに自分は家がなくなって、本当に大丈夫かと不安になりました。でも、家が無くなったことで、ホームレスの方と近づける機会があり、そういう方と話すことで知らない世界のことを知ることができました。その都度つらいこともありますが、ネガティブだけじゃなくて、この話っていつかポジティブに話せるなと思いましたね。
もともと私はものすごくネガティブ。この世の終わりだと思うこともありましたが、いつかどこかで話せるかもしれないとニヤニヤと思う気持ちや「29歳で家がないっておもしろーい!」と思う自分も少しだけどいましたね。
そこで行き着いた私の考えが、ネガティブは根本にあるけど、それをポジティブにコーティングすることが大事だと思います。「もうだめだ」と思う気持ちや自分に生まれた気持ちは無視したらだめだと思います。気持ちを受け止めつつ、「でもそれってこう考えられる」など、少し気持ちを離すこと、自分の気持ちに飲み込まれないことが大事だと思います。ポジティブでコーティングすると誰かに話すときも少し明るく話すこともできます。
ネガティブイコールだめだとは思わないでほしいです。ネガティブだから準備するし、不安だからいろいろ調べる。いろいろな準備ができるし、最悪の状況も考えることができるので、何かあった時にそこまで落ち込まなくて済んだりします。そこをポジティブでコーティングすることで「じゃあいってやろう」という気持ちになれたら、さらに前に進むことができると思います。
書くことで自分を知ると、自分の気持ちを正確に伝えることができるようになります。自分の気持ちの主は自分。その気持ちに飲み込まれないことが、日々のモヤモヤから脱出する一つなのではないかと思います。



「ことば」のモヤモヤを考える

―川村さん
自分が言ってしまったことでモヤモヤする「なんで私こんなこと言ったんだろう」というのは誰しもありますよね。私も30年前に思ったことでいまだに覚えていることがあります。私が小学校4年生、新聞部だったときの話です。「Mちゃん」という同級生がいたんですが、その子のペンが出なかったんです。新聞部の活動をしているとき、「そのペン全然出ないから使わない方がいいよ」と言ってしまいました。気のせいかもしれませんが、一瞬空気が変わった気がして、私が言うべきことではなかったと思いました。それから人の物に関して何か言わないということを守っています。
言ったことは後悔しても取り返しがつかないですよね。自分が言ってしまったことややってしまったことに対するモヤモヤの対処法は、「思い出す瞬間を知っておくと、落ち込まないようになる」というのが私が導き出したことです。例えば前の話だと、ペンを書いているときや「Mちゃん」という名前の人に出会ったときなどが思い出す瞬間になります。思い出したときに、「言ったらだめと学んだんだった」と自分の中で処理ができていると、重くならないし落ち込まないで済むということに気付きました。一つ気持ちを離して、客観視して思い出すことで、今では小学生の頃の笑い話として話せるようになりました。自分が言ってしまったことはしょうがない、でも、その気持ちに飲み込まれず、自分の気持ちをコントロールし、自分の気持ちの主になることがモヤモヤの対処法の1つで大事だなと思います。
「相手から言われてモヤっとすること」の対処法もお話したいと思います。「思い出を引き出しに入れる」というイメージをすることがあると思いますが、その引き出しに嫌な思い出を入れてしまうと、ずっと苦しい思い出や苦い思い出のままだったりすると思うので、私は引き出しをイメージするのはあまりよくないと思っています。モヤモヤしていることは言われたときに受けた気持ちで、ジ・エンドな気持ちになっていることがすごく多いと思います。こちらも、自分が気持ちの主になることで、“苦しい”という引き出しがなくなると思います。「あのときこう言いたかった」、「こうしたかった」ということを話したり書いたりすることで、自分の気持ちを処理することにつながります。すると、何かのきっかけで思い出してしまっても、「あーあのことね、こういう気持ちになるあれね」と、自分の気持ちに飲み込まれなくて済むと思います。後は、「こう言われたら、これを言う」ということを見つけておくことがモヤモヤに対しての対処としていいことかなと思います。両手を前に出して、右手を上げながら「スペペペペ」。私の空気を変えるギャグです。空気を変えることで、自分の気持ちを一回逃がしてあげる、解き放ってあげることが一個の手段なのかなと思います。



自分でできることや好きなことを見つける

―川村さん
誰かへのあこがれはあってもいいと思います。でもそれを自分のコンプレックスにしない、誰かの幸せは自分の不幸にならないということを明確にしておくことが大事です。そして、誰かの不幸は自分をハッピーにはしません。人と比べることをしないで、自分でできることや好きなことを見つけることが日々を豊かに、楽しく充実した穏やかなものになるのではないかなと。生き方としては自分を知って夢中になれることを見つけることが大事だなと思います。年齢に関係なく今日が一番若いんです。私は、毎日身を粉にして勉強して、身を粉にして遊んでいきたい、と日々思います。



【編集部より】第2部では、参加者からの質問に川村さんにお答えいただき、「ことば」のモヤモヤについて、みんなで考える時間となりました。川村さんのエッセイ「わたしもかわいく生まれたかったな」は、マルタス2階の「人づくり」コーナーにございます。ぜひ、「ことば」について考えながら読んでみませんか?