レポート

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丸亀市のうちわと本藍染、自然のモノにこだわる。旅籠屋 Tonbiii

江戸時代から金毘羅参りのお土産として丸亀藩がうちわ作りを奨励し、代表的なうちわ産地の基盤を築いた丸亀市。現在、うちわの国内シェアは9割を誇り、その内の約1割が伝統的な竹うちわだそうです。
清水雄高さんは、丸亀市西平町“旅籠屋Tonbiii”で、丸亀市伝統の「うちわ」と徳島県伝統の「本藍染」をかけ合わせた商品の販売やワークショップ、ゲストハウスを運営されています。2つの伝統を未来へと繋いでいく清水さんに、モノづくりに関わるようになったきっかけやこだわりについてお話を聞きました。

自然を大事に、次世代に残す

20代の頃はトラックを運転する会社員だったという清水さん。持病のアトピーが悪化し、体調に不安を覚えたとき、さまざまなことを自分で調べたそうです。いろいろなことを知る中で、江戸時代には普通に行われていた「循環した暮らし」に興味を持ち、「自然を大事に、次世代に残すこと」をしたいという思いが強くなっていったそうです。

徳島県で「本藍染め」に出会う

人類最古の植物染料と言われ、古くから漢方薬としても使われている藍。また、抗菌・防虫作用などの効能も持っている自然素材「藍」に興味を持った清水さんは、藍染の本場である徳島県の工房で藍染体験を行ったそうです。
「空と海をテーマにしている工房で初めて藍染体験して、それからさまざまな場所で体験をしました。この時はまだ仕事もしながら趣味の一環だったのですが、さまざまな職人さんの話を聞いて、藍について学びました」



丸亀のうちわを学ぶ

「丸亀はうちわの本場ですが、うちわ職人は減ってきています。この技術も残していきたいなと思い、丸亀市が行っている『丸亀うちわ技術技法講座』に応募し、うちわの港ミュージアムで約2週間、うちわ作りについて学びました。そこで一つ気になったのが、竹の枠につける防虫剤。私は自然素材が好きなので、これを藍で代用できないかと思いました。そこで藍染めの師匠にも相談し、うちわの竹枠を藍で染めてみたんです。そこから、丸亀のうちわと徳島の藍を合わせ香川県で『本物』を知ってほしいと本格的に活動を始めました」
清水さんの活動がここから動き始めます。


うちわの竹の骨組み


お店をオープン

2018年8月、丸亀市垂水にお店をオープンし、その後、2019年に現在のお店に移転しました。この移転先は、部屋数の多さも見て、ゲストハウスを併設することを決心したそうです。オープンまでの2か月はお店作りに集中し、電気や水道工事以外は自分でしっくいなどの自然素材を使い作り上げたそうです。古民家を利用したお店は、温かみがあり随所に清水さんのこだわりが光り、なんだか懐かしい気持ちになるお店です。お店には、清水さんの作ったうちわや藍染のマスクなどの商品が並べられ、ワークショップも行われています。


たくさんの商品が並ぶ店内


藍染めへのこだわり

江戸時代に確立された「天然灰汁発酵建て藍染め」。この技術により、藍染は綿や麻にもよく染まると評判になり、一般市民にも広がりました。藍染は、藍の原料を栽培する人、染料となる「すくも」作りの職人、藍染職人と分業で行われてきたそうです。
取材させていただいた日には、大きなベッドシーツを染められていました。お店には、大きな瓶が3つ並んでいます。中には、古さの違う藍染め液がいっぱいに入れられていて、若い液と時間の立った液で染め具合などが違い、用途に合わせて使いわけているそうです。ベッドシーツを浸し、よく絞り、空気にさらす。藍は空気に触れる時に色が染まるそうです。
「ここに3つ瓶がありますが、3つとも性質が違って特長があるんです。薄い色が得意なものや濃い色が得意なもの、バランスがとても大事です。藍の瓶の中に浮かぶ泡は、『藍華(あいのはな)』と呼ばれていて、この様子や手触りなどでも状態がわかります。藍が元気だとワクワクしますね。でも今日のような大きなものを染める作業中は『無』になります(笑)大きいものや硬いものは染めるのが大変ですし、うちわで使う和紙は、破れやすいので慎重になります」
藍染めのベッドシーツは、抗菌作用があるのでおすすめだそうですよ。


作業を行う清水さん


丸亀に訪れた人の思い出に残る町に

今のお店は丸亀駅徒歩4分の立地ということもあり、ゲストハウスにもたくさんのお客様が訪れるそうです。うちわ作りのワークショップは新型コロナウイルスの影響を受ける前は外国の方にも人気があったそうで、さまざまな国の方が日本の文化に触れたそうです。
「丸亀市は、お城があって歴史があるし、マルタスもできたし(笑)すごくいい町だと思う。香川県は丸亀以外にもいい所がたくさんある。丸亀は香川県の真ん中に近いので、丸亀市を滞在の拠点にして、訪れた方にはいろいろなところを見てほしいなと思います。しっかりとおもてなしして、そんな人たちの思い出の町になってほしいですね」


落ち着いた雰囲気の客室


循環した暮らしに

トンビは、上昇気流に乗って輪を描きながら上空へと舞い上がります。店名「Tonbiii」には、輪を描き、循環した暮らしをめざす清水さんの思いが込められています。
「ワークショップに参加してくださった方や商品を買ってくださった方が感動してくれた時や自分の思う納得のいく作品ができたときは嬉しいです。今後、『これはTonbiiiのものだ』と一目見てわかってもらえるようないい作品を作っていきたいなと思います。これからも一生修行ですね」



自然のモノ、環境へ負担にかからないモノにこだわり、循環した暮らしをめざす清水さん。見るだけで落ち着くような深い藍色や、どこか懐かしい気持ちになる和紙のうちわ、2つの伝統と本物にこだわり、今後も活動を続けていきます。清水さん、貴重なお話ありがとうございました。
マルタスでも、今後、清水さんによるうちわ作りのワークショップなどを計画しています。詳細は決まりしだい公開されますので、気になる方はぜひご参加ください。

旅籠屋Tonbiii
https://www.uthiwa-indigo.com/