レポート

Report

島と仕事~自分のスキルで地域の価値を引き出す~ 2021.10.20(水)

10月20日(水)、「島と仕事~自分のスキルで地域の価値を引き出す~」と題したトークショーが開催されました。丸亀市の「本島」に関わり、さまざまな取組をされて来た髙木智仁さんと湯川致光さん、新しく本島で活動をされる久保田宏平さんに、島の可能性とこれからの取組、そして自分のスキルを地域に活かし価値を引き出すための考え方についてお話を伺いました。

・髙木 智仁
CONNECT代表
1977年丸亀市綾歌町生まれ
2001年ヤマギワ(株)入社インテリアの販売に従事
2005年(有)ロワール商事 代表取締役就任
2006年CONNECTのEC・SHOPの立上げ
2018年(株)スナック 創業し代表取締役に就任
Honjima Standをオープン
本島で内外の方をつなげる役割として貢献


・湯川 致光
株式会社HYAKUSHO 代表取締役/パブリック・ディレクター
1986年 東京都生まれ
2012年 東北大学公共政策大学院修了(公共法政策修士)
2012年 神奈川県庁入庁
2014年 香川県庁入庁
2019年 高松空港株式会社入社、株式会社HYAKUSHO設立
2020年 立命館大学地域情報研究所研究員所属  
丸亀市都市再生推進法人として民間による丸亀のまちづくりを推進。専門はPPP/PFI、官民連携、観光まちづくり、市民協働。丸亀市リノベーションまちづくり実行委員会委員長を歴任。


・久保田 宏平
合同会社久福 CHO
1981年生まれ 香川県坂出市出身
2006年 (株)穴吹トラベル入社 インバウンド(訪日旅行)事業責任者として自治体の訪日観光プロモーション、地方の体験コンテンツ造成などに携わる
2021年 合同会社久福(きゅうふく)創業
塩飽本島を中心に“Something WOW”な体験を提供するHONJIMA EXPERIENCEを始動
2022年春、本島内の古民家を改修しクラフトビール醸造所をオープン予定
家族と共に“本島”と“坂出”の二拠点生活を目論み中


自分のスキルと地域の価値

自己紹介からお願いします。

―髙木さん
本業は、インテリアの仕事がメインで、最近は、インテリアにまつわる情報など北欧家具を中心にオンラインで発信しています。ここまで聞くと島とはかけ離れていると思われるかもしれませんが、CONNECTのミッションは、「シンプルで心地よい暮らしを提案する」ということを掲げています。「暮らしをより良くしよう」と考えたときに、室内のインテリアのことだけを良くしても暮らしは成立しないと思います。CONNECTは、丸亀市綾歌という山の方にあり、過疎化が進み、空き家が増えている地域です。そこで、空き家を活性化しようというところからスタートしました。
丸亀は海が近くて、島があります。丸亀は縦に長く、山側と海側が盛り上がれば縦のラインができて、街中がもっと活性化していくだろうと考えました。そういう考えから、島に入って、できることを一つずつ頑張ろうと思っています。現在は、本島の港から徒歩1分のところで、「島のレセプション」をコンセプトに、「Honjima Stand」というカフェを運営しています。
あと島に関わる活動では、瀬戸内国際芸術祭2019期間中、本島の笠島という町並み保存地区認定エリアで、「フリッツ・ハンセン庵」をオープンしました。笠島は町並みが整っていますが使われていない空き家が増えている場所で、そこを新しい動きで地域活性し、なおかつ僕の本業とリンクさせて何かやりたいという思いから、空き家のオーナーに話をし、実現しました。この取組はたくさんの反響をいただき、「本島だけではもったいない」という声から、逆に本島のものを東京・表参道に持っていきイベントなども行いました。しかし、そのあとコロナ禍となり、いろいろ見直さないといけない時期となりました。来年、また瀬戸内国際芸術祭が始まるので、そこに向けて改めて、できることを考えたいと思っているところです。

―湯川さん
丸亀市都市再生推進法人に認定していただき、丸亀市のまちづくりに携わっています。簡単に言うと悪いことができない、何か悪いことをするとすぐ新聞に載る法人です(笑)何をしているかというと、私は、「行政と民間はもっと連携したほうがいい」と思っていて、連携について結婚で表すと、婚姻届けを出すだけでなく、そこからどう結婚生活をうまく運営するかが大事ですよね。行政と民間も同じで、お互いが違いを理解しながら、契約形態や仕様書の在り方など細かいところの組み立てが大事だと思います。僕は、その細かいところを調整することを生業にしています。僕自身はもともと行政にいて、いろいろな人と接しながら取り組んで来た中で、私はコーディネーター的な調整役が得意だと思いました。行政の言葉や専門用語などがわからないときもあると思いますが、僕はそこらへんをかなり勉強しています(笑)
あとは、僕自身が東京出身で7年前に香川にやってきたこと、「外部の人間」だということも特徴だと思っています。地域で何かを始めるときや新しいことを始めるときにそのエッセンスは大事だと思います。今までの人間関係の中で、新しいことを始めるということなかなか難しいですよね。「しがらみ」という言葉はあまりよくないと思いますが…今の延長が明日、明日の延長が明後日という中で生きていく中で、いきなり新しいことをすること自体のハードルが高いと思います。でも、あまり関係のない人や外部の人間などが「こういうのどうかな」などということに価値があると思います。それをしっかり自分事にして巻き込んでいくことが大事で、僕自身、そういう役割を担っていきたいですね。

―久保田さん
合同会社久福(きゅうふく)を創業しました。実はサラリーマンで、穴吹トラベルで新卒から働き、実は今もそちらに籍があり、働きながら自分の会社もしているという状況です。二人に比べると、僕はだいぶ俗っぽい話になりますが…(笑)
本島でブルワリーを開業予定で、来春をめどに準備しています。つい先日、ようやく融資がまとまり、今月末からようやく工事に入れる段取りになりました。それから、営業できるエリアが限られている地域限定の旅行会社として、「HONJIMA EXPERIENCE」という屋号で旅行業の登録をしています。こちらでは、お二人と一緒に、本島を中心とした体験型の旅行商品の企画販売をしています。
あと、サウナコミュニティを作っています。ビールって醸造免許を税務署に申請しないといけないのですが、それにかなり時間がかかるんです。そこで、何かおもしろいことがないかな?と考えたとき、「サウナがいいじゃん!」と思いつきました。「アウトドアサウナ」をご存じですか?もともとは北欧フィンランドが発祥で、テントの中で薪ストーブをガンガンにたいてサウナにし、大自然の川や湖、海を水風呂として利用します。瀬戸内海ってとてもきれいですよね。山口・岡山・四国・瀬戸内海の島、どこに行っても絶景なんですよ。そんなきれいな瀬戸内海のいたるところでサウナができる業者が増えると、「サウナ×瀬戸内海」という価値観が生まれて、新たな瀬戸内のブランディングができるなと思いました。



「本島」というフィールド

それぞれのスキル、やりたいことを地域で行う3人ですが、瀬戸内や島というフィールドの共通点がありますね。なぜ本島にフォーカスを当てたのでしょうか。

―髙木さん
僕が言い出しっぺで、二人を巻き込んだ感じがします(笑)でも、気持ちよく巻き込まれてくれていると理解しています。「なぜ本島か」というきっかけですが、北欧家具を買い付けにデンマークに行く機会があり、そのときにデンマークの大学の建築学科の教授と知り合い、「うちの学生をぜひ受け入れてほしい」と2014年頃から言われていていました。空き家をなんとかしたいという思いがあったので、デンマークの学生と一緒に空き家をリノベーションするプロジェクトを思いつき、教授に連絡をしました。すると、すぐに「ぜひ、やりたい」と返事があり、さっそくデンマークから2人送り込まれてきたんです。当時からデンマークでも瀬戸内の島、特に直島は人気のエリアになっていたようで、僕が丸亀から来ていたことを知ると、彼らはグーグルマップで調べ、「近くに瀬戸内海があり、丸亀の島を調査すると本島が出てきた。本島で調査して、島で何か活動がしたい」という申し出がありました。そこで、本島で取り組める状態をサポートしようと思いました。でも、いきなり外国人が本島に現れて、ワラワラと島の中を歩いていると、島のおじいちゃん・おばあちゃんはびっくりしてしまうので、まずは説明に行きましたね。島の自治会の町会におじゃまして、「デンマーク人の学生と教授が約13人来ますので、皆さん、お世話になります。何かあったら責任は僕が取るのでお願いします」と話しました。すると、「わかった」と言ってくれて。そのときは約3週間の滞在でしたが、気付けばデンマーク人の子たちがどこからかパンをもらってきていたり、お昼ご飯をごちそうになってきたり。いつの間にか島の方とすっかり仲良くなっていて、とてもお世話になり、学生たちが帰るタイミングには、活動を応援してもらうような言葉をいただきました。そんな風景を見ていると、地元の人間がこの活動を継続しないといけないと思いました。定期的に来てもらえる環境作りやプロジェクト自体がちゃんと島の活性化につながる取組にしないといけないと思い、本島での活動につながっています。
また、Honjima Standは、僕らがお店を始める前は、地元の方が定食屋さんをされていましたが、僕らが島に入り始めた頃、ご高齢のためにお店を閉めてしまいました。お昼ご飯を気軽に食べられるところがなくなってしまい、当時お世話になっていた島の人たちにお話を聞くと、漁業組合が管理している物件だから興味があるなら話しておくからと言われて。そして、漁業組合に改めて話をしにいくと「いつからしたいんだ」と言われました。ギャグみたいな話ですよね。「興味がある人」が「やりたい人」に変わっていて、つまり、島の方がいい様に解釈してくれたんですよね。さすがに一週間くらいはいろいろ考えましたが、「自分で出来ることならやります」と返事しました。ですが、飲食経験は0。最初はホットドッグとフライドポテトとビールとコーヒーしか出せないけどいいですかと話し、そこからスタートしました。最初は僕が島に通い、10時40分のフェリーで行くと、すでにオープン待ちしている島の方たちがいるんです。急いでお店を開けて、コーヒーを出して、片づけて帰る、そんな感じから始まりました。その間、たくさんの島の人に叱咤激励をいただき、「頑張れ」と言ってもらうこともありました。今、一緒に活動してくれている島の漁師さんたちも応援してくれるようになり、なんとなく今の形ができてきたというか。正直、採算なんて合わなかったです。でも、やらないことには始まらないですから。
湯川さんとのつながりもその頃からですが、リノベーションやまちづくり、丸亀の中心市街地の空き家を何とかしようとかいう取組を一緒にやっていて、常々出る課題が「とにかくプレーヤーがいない」ということです。プロジェクトを立案し、コンサルを入れるなど、外側のことにはお金を入れますが、実際動き始めると「これって誰がやるの?」という問題が出てくる。だいたいの場合は、東京などの都市部の学生を呼んでやろうなどと考えがちですが、そんなに簡単には来ませんよね。だから自分でやるのが早いと思いました。僕は地元で商売をしていますが、地域振興や観光とはまったく関係ないところにいます。でも、島での活動を通して、自分たちのビジネスがちゃんと地域振興につながり、自分たちのビジネスを後押ししてくれるものだという実感があり、今に繋がっています。

―久保田さん
僕が本島に行きついたところから話すと、もともと旅行会社でインバウンド事業を担当していて、海外の旅行会社にセールスすることもありました。僕が主にしていたのは、自治体がインバウンド向けのプロモーションをするお手伝いで、「地方のコンテンツを開発しましょう」というのがよくありましたが、そういったことをやっていくと、先ほど髙木さんや湯川さんが言われていた課題に僕もまさに当たりました。「こういうことやりましょう」、「こういうコンテンツ作りましょう」という言葉をかけると絵を描き、予算を付けるところまではできますが、つきつめていくと、「これを誰がする?」という問題がでてくるんです。「今年度はなんとかなるけど、来年度はどうする?」ということとか。そういうことをやりながら、心のどこかで、『プレーヤー側になりたい』と思い始めました。俯瞰で見られる視点を持ったまま、プレーヤーになるのは、けっこういいんじゃないかなと。
そんな中、「ビールをやってみよう」という機会があり、夫婦でブルワリーの会をめざして動く中で髙木さんとのご縁などもあり、本島になりました。本当は、最初は島と思ってはいませんでした。僕は坂出出身なので、坂出界隈や高松にもその頃はなかったので高松市内もいいな、などと可能性を探っていて、たまたま丸亀の本島を紹介いただきました。そのときに将来的な展望として、子供向けの教育体験コンテンツも提供したいという思いや、フィールドは瀬戸内と四国両方のエリアがいいなという思いから、だったら自分たちの拠点が島にあるのは、合致しているのかなとイメージができました。とはいえ、本島で調べても物件情報は出てこないんです。「本当にできるのかな?できたとしても時間がかかるな」と思っていたら、運よく大家さんとつながりができて、大家さんが「そういうことなら自由に使ってください」とおっしゃってくれて。そういうことで一気に進んだというのが本島になった理由ですね。



異業種が集う『丸亀会議』

―髙木さん
地元で商売をしている人たくさんの人たちを巻き込んでやっていくべくだと思い、湯川さんに相談し、『丸亀会議』をやろうよと持ちかけました。

―湯川さん
『丸亀会議』では、「丸亀エリアを中心に、業種の壁を越えてアイデアを共有してポテンシャルを開放する」…それっぽい言い方をしていますが、『とにかく新しいことをしようよ』という組織です。普段仕事をしていると、その業界の人にしか会わないと思います。そうなると思考もその業界のものになりますし、ほかがどう動いているのかなどがわからないですよね。そういうことを「丸亀会議」で交流し、話し合うことで共有できる。そういった場作りを髙木さんと行っています。

―髙木さん
単に交流の場というだけではなく、プロジェクトという大それたものでなくても、「ちゃんとみんなで楽しみながらお金儲けをしようぜ」と。地域をベースにしっかりやれば、もっと面白いことができるのでは?というのを、話し合えたらいいなと思います。異業種の人が集まり、アイデアを出し合えたらいいですね。



たくさんの可能性を秘める地域での仕事

本島のこれからの可能性は?

―湯川さん
地域には何かをする余白があると思います。東京には余白がまったくありません。サービス提供者がいて、受け手がいて、消費者としてしか振舞えない街だと思います。僕が地方に行くと感じるのは、「自分が当事者になれる」ということです。「余白があること」をポジティブに捉える人にとっては、本当に前向きな場所だと思います。ただ、そこに可能性を感じない人は、都会にいた方がいいのかなと思います。そこはその人次第で、僕がいろんな地域を見ていると、そういう余白を見つけて楽しんでいる人、使い倒している人は生き生きとしていますね。それが第3者から、「活性化しているね」などと見えるのではないかなと思います。

―久保田さん
余白があることに似ているかもしれませんが、新しい価値観は作りやすいかなと思います。本島に限って言うと、塩飽水軍の本拠地的な場所が本島だったそうですが、塩飽水軍の歴史をちゃんと学ぶと物凄い歴史が受け継がれています。塩飽水軍があり、その技術をもとに塩飽大工がいて、その人たちが瀬戸内沿岸のたくさんのお寺などを建てたそうです。なんとなくイメージしやすいですよね。本島で新しい価値を生み出すと、「塩飽ってそういうイメージなんだな」、「瀬戸内ってそうなんだな」と広げやすいと思いました。

―髙木さん
本島は、自分のビジネスにもかなりプラスに作用すると思っています。特に僕だと、物を仕入れて販売するという小売業ですが、小売業の現状って、資本力の勝負で大手やメガショップが勝つような仕組みになっているんですよね。そんな中、自社のビジネスを差別化するには、大手ができないことをしないといけません。大手やメガショップができないことを地元の事業者がやることによって、地域は活性するし、自分たちのビジネスもちゃんと確立されます。今の日本だと、どこにいてもお金さえ出せば物は手に入るし、ある一定のサービスが受けられる状態になっています。そんな中、なぜ僕がこの地域に残って商売をしているのかということを考えると、地域が発展していく過程で、自社のビジネスが絶対に伸びると思っているからです。EC(インターネット上のサイトで販売するサイト)をやっていると、全国大会に常にいるような感じで、競争率がかなり高いです。東京のお店などと張り合わないといけない中、自分の店が選ばれるには何かを明確に出すことが大事で、僕らなら、地域でインテリアを通じていろいろしているところなどにお客さんに共感してもらえるポイントを作り、どうせ買うならそういうところで買おうと思ってもらうことが大切なのかなと思います。



今後の活動を考える

これからの目標・ビジョンを教えてください。

―髙木さん
来年、瀬戸内国際芸術祭2022を控えています。去年と今年は、コロナ禍でなかなか思うように動けませんでしたが、そこをプラスに考え、情報発信を先行しました。来年はそれをちゃんと実に結び付けたいですね。具体的には、久保田さんのブルワリーをちゃんとオープンして、華々しくデビューしてもらうことを願っています。もう一つは、本島には宿泊施設が足りないという課題があります。泊まれるところがない現状をどう解決するかについて取り組んでいるので、早めに結果を出していきたいなと思います。

―久保田さん
目先の目標としては、ブルワリーの開業がちゃんとできることですね。ビールと観光とサウナ、一見関係のないように見えますが、どれも肩書やジェンダーなど関係なく楽しめ、交えるコミュニケーションツールだと思います。それのお手伝いをしたいですね。特に観光業は、本島の漁師さんと一緒に島でしかできない体験を一般の方・お客さんに提供することを目的に、島を訪れる人と、島の事業者さんを繋ぐ役目をしています。実は、僕はこういうところに旅行会社が絡まない方がいいと思っているので、将来的には、事業者さんが直接旅行商品を扱えるようになったらいいなと思っています。直接一般の方に体験を提供するというのが一番ストレートで、事業者さんはその方が儲かるし、利用者さんも安く、密なコミュニケーションを取れるというメリットがあります。そういうお手伝いもしたていきたいですね。

―湯川さん
僕は、事業をやるときに自治体との仕事やとか、そういうところが出てくるときに、しっかり僕はバックオフィスとして、提案書を書いたりだとか企画書・報告書を書いたり…そういう雑務をひたすらしっかりやらなければならないと思います。最前線で先輩方ががんばっていけるように、僕のスキルを活かして関わっていけたらすごく嬉しいです。今後はそこを極めていきたいですね。



【編集部より】トークショーに参加した方からは、「プレーヤーとしては難しいかもしれないが補佐的に協力したい」、「さまざまなフィールドで活躍している方と交わってみたいと思った」などとても前向きな感想が聞かれました。3人のパワーが周りの方に伝わり、今後の丸亀の力に変わっていくような気がしました。これからも3人の活躍に期待です。